研究概要 |
子宮内膜症合併卵巣癌(endometriosis-associated ovarian cancer; EAOC)をモデルに,発癌段階のIFN-γ誘導性ケモカイン受容体CXCR3のバリアントに着目し、CXCR3応答軸破綻が引き起こす病態を解明してきた.これまでの研究から, IFN-γとCXCR3は炎症疾患である子宮内膜症のみならず卵巣癌でも発現が亢進していることを示し、ヒト内膜症とEAOCにおいて3種類のCXCR3バリアントが存在することをシークエンス解析から証明した。次にCXCR3-Bと CXCR3-Bに対応するリガンドCXCL4がEAOCでは抑制されていることを発見した. 単嚢胞中に発癌するEAOCを用いて内膜症部分、境界部分、癌部におけるCXCL4を検討した。その結果、CXCL4は段階的に悪性部分で減少し、その発現細胞がマクロファージであることを突き止めた (Furuya M, et al. Cancer Biol Ther, 13:671-80, 2012). 病変部におけるマクロファージの特徴を検討したところ、内膜症ではCD68 (+) CXCL4 (+) マクロファージが主体であるのに対しEAOCではCD163 (+) CXCL4 (-)マクロファージが主体であった. さらにIFN-γ高発現EAOC症例においてsuppressor of cytokine signaling 1 (SOCS1)が減弱していることを発見した. Western blotでは有意な差が認められた. 組織学的に検討したところ、SOCS1発現の主体は浸潤マクロファージであり、内膜症では発現が認められるのにEAOCでは発現が明らかに低下していた. 以上の結果から, IFN-γ高発現下で発癌するEAOCに動員されるCD68 (+)マクロファージは, 従来のM1/M2に規定されるものではなくCD163 (+) CXCL4 (-) SOCS1(-)という特徴的なマーカーを有するものであることが判った. これらの分子の発癌への役割や診断応用が今後の研究課題となる.
|