研究課題/領域番号 |
23590409
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
土橋 洋 自治医科大学, 医学部, 准教授 (90231456)
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研究分担者 |
遠藤 俊輔 自治医科大学, 医学部, 教授 (10245037)
柳川 天志 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40400725)
北川 雅敏 浜松医科大学, 医学部, 教授 (50294971)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 肺癌 / mTOR / Akt / 遺伝子増幅 / 遺伝子変異 |
研究概要 |
山梨大学、九州大学等との共同研究で肺癌140例, 骨軟部腫瘍90例で上皮増殖因子受容体(EGFR)下流因子(Akt, mTOR等)の異常の解析を行った。a)肺癌におけるEGFR-Akt-mTOR-pS6系の活性化:この系は小細胞癌での関与は低く、非小細胞癌(NSCLC)の約10%に構成的活性化が見られた。更にEGFR非依存性にAktが活性化されている症例も目立ち、Aktの過剰発現は肺癌全体の60%で、活性化は44%で認められた。FISH解析により全肺癌の24%にAKT1, AKT2遺伝子の増加が見られ、11%は遺伝子増幅、あるいは高レベルpolysomyを示した。この群は全例でAkt蛋白質の活性化を伴い、かつEGFR遺伝子の増加や変異が無く、両遺伝子変化の排他性を認め、AKT-addiction を示す一群である可能性が予想された(2011年, 日本病理学会発表, Human Pathol.2011,2012)。b) 骨軟部肉腫におけるAkt-mTOR系の異常: 軟部肉腫ではAkt-mTOR系の活性化の頻度が高く、特に平滑筋肉腫では70%以上でPten非依存性に活性化があり、予後不良のマーカーであった(Cancer, 2012)。pS6系も含めた活性化群は組織型を問わず、予後不良であった(投稿中)。c) Akt-mTORの系で変動する因子の解析:NSCLC でmTORの発現群、非発現群の比較から変動する遺伝子をmicroarrayで4個抽出した。その中で最も変動の大きい"因子A"の発現は、扁平上皮癌でmTORと拮抗し、腺癌では相関していた。この蛋白は浸潤先端部で発現が高く、高発現群は予後不良となる傾向を認めた。d) mTORの抑制系:肺癌培養細胞でmTORのsiRNAによる発現抑制実験の系を構築した(Int.J.Clin.Exp.Pathol.2012)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.計画の中で最優先課題としたAKT1, AKT2遺伝子増加のFISH解析で、結果が首尾よく得られた。実際のヒト肺癌における解析としては初の報告である。また、AKT-addiction を示す一群が抽出できた可能性があり(Hum. Pathol. 2012)、生物学的意義があると考えている(概要a)。しかし, 高レベルの遺伝子増加が約10%程度であったため、臨床的意義に迫るだけの異常症例数を抽出できなかった。肺癌では小細胞癌も含め、AKT1,2両遺伝子の関与が示され、AKT2依存性と考えられる骨軟部腫瘍でも両遺伝子の数的増加が見られるが、低レベルの増加が多く、肺癌とは異なる様式の関与を予想している。2. NSCLC でのAkt-mTOR系の構成的活性化はリンパ節転移と相関し(Hum. Pathol. 2011)、骨軟部腫瘍では予後と関連する群を見出し(Cancer, 2012)、臨床病理学的側面を明確にした。本年度はAkt1, 2 蛋白質過剰発現、活性化とAKT1,2遺伝子の数的変化の厳密な相関関係の解析にまで至らなかった。3. mTOR系の変動因子の解析 (概要c) は、培養細胞での解析が困難でヒト肺癌の組織からmicroarray解析を行ったが、4因子を抽出し、最も変動した因子には市販の抗体が作製されていた。それを用いた免疫組織染色で、mTORと拮抗的な発現様式を認め、mTORとの密接な制御関係を確認した。この因子のヒト肺癌全組織型における系統的発現解析や、mTORとの関係も報告が無く、病理生物学的に有意義である。4. siRNAによるmTOR発現抑制の培養系を確立した(Int.J.Clin.Exp.Pathol.2012)。5. 多型解析はAKT1, 2遺伝子に関してAffimetrix社SNPアレイを用いて椙村らと共同解析を行い、現在300例終了した。
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今後の研究の推進方策 |
1. AKT-addiction を示す一群に関する研究で(概要a)、更にこの群の症例を見出し、統計解析を行えるだけの集団とし、臨床病理学的プロファイルを明らかにする。免疫染色によるスクリーニングとFISHによるAKT遺伝子の数的増加の解析で今年度と同様である。2. 骨軟部腫瘍でも同様の解析を多数例に関して継続し、現在のpreliminary dataのvalidationを行う。また肺癌も含め、今回はtotal-Akt蛋白質に対して行った解析をAkt1, Akt2のisoform-specific抗体で免疫組織染色、immunoblotting解析により、遺伝子と蛋白質の異常の相関をより明確な解析結果として得る。解析方法は連携研究者(大井、椙村、稲沢等)と既に確立したシステムである。3. Microarrayで抽出したmTOR下流因子の検索は、今年度に研究協力者の松原が確立した肺腺癌細胞での発現抑制の実験系とrapamycin添加の両系を利用してmTORとの制御関係を明らかにする。免疫組織染色では両者の関係は腺癌と扁平上皮癌で異なっており、培養細胞でも全組織型で検索する。"因子A"は全長cDNAを北川が確立したvectorで導入し、mTORの変動、遊走能/浸潤能解析(柳川が確立した金コロイドコートガラス, Boyden chamberの系を利用)も含めた機能解析を並行する。4. 3. のmTORの発現抑制、"因子A"の導入により得られる培養細胞と陰性群から今年度と同様に3D gene microarray(東レ)で、変動する遺伝子、特に"因子A"の下流因子を抽出する。5. 多型解析はAKT1, 2遺伝子に関してAffimetrix社SNPアレイを用いて椙村らと共同解析を継続し、500例終了時点で都神経研・池田教授らと統計解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も本研究申請時の計画通りの研究の継続であり、i)ヒト肺癌と骨軟部腫瘍における解析の発展、ii)肺癌から抽出した遺伝子の培養系における機能解析、が柱となる。i) ヒト腫瘍での発現解析は免疫組織染色、immunoblot であり、最近市販されたAkt1,2特異的抗体での検索を新たに追加し(一次抗体12万円)、二次抗体以降の試薬は3万円/100μlで年間150μl, 染色用は6.5万円/100mlキットを年間100ml, 9.5万円/125枚(納付書では100枚分)のCSAキットを年間120枚で見積もっている。設備費は必要とせず、消耗品のみの今後の補充、新たな必要性を念頭に試算、計画した。高額な遺伝子増幅解析用のプローブのBAC clone(centromereも含む)は稲沢教授より供与され、我々独自の節約マニュアル(試料の切片上でのトリミング等)で、FISHプローブ作製に1ラベリングキット(Abbott-Vysis社, 8万円)を40切片分(納付書では20切片分)に使用し、年間50切片を想定している。マイクロアレイは東レの3D-geneチップ(10万円/枚)、多型解析はAffimetrix社SNPアレイ(約8万円/枚)を大井、椙村らと連携しながら購入し、解析を進める。結果、必要とする試薬費用は今年度より低額となる。培養系ではsiRNA, cDNA導入実験に費用を要するため、来年度に高額となるが、今年度から繰越金があったため、補える範囲である。謝金は1-2人の非常勤職員手当て、外国語論文校閲費(3-5万円/論文)、旅費は例年通り学会2回、研究打ち合わせ2-3回、"その他"の予算も過去数年の経験から年間3-4論文を想定した予算計上で(本年度は4論文)、本年度とほぼ同程度である。いずれの費目でも研究経費の90%を超える項目は無い。
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