研究課題
肺癌180例, 骨軟部腫瘍91例で増殖因子受容体の下流因子、Akt/mTORの遺伝子の数的異常、蛋白の過剰発現、活性化の解析を行った。1. 肺癌のAkt異常: Aktの発現は小細胞癌も含めた肺癌全体の62%、活性化は44%で認められた。Fluorescence in situ hybridization (FISH) 解析により13%に遺伝子増幅、高レベルpolysomyが見られ、この群はAktの活性化を伴い、EGFR遺伝子の異常が無く、AKT-addictionが示唆された(2012年, 日本病理学会発表, Hum. Pathol. 2012)。 2. 骨軟部肉腫のAkt-mTOR系異常: Akt-mTOR系の活性化頻度が高く、悪性末梢神経鞘腫では40-60%に活性化があり、予後不良群であった(Clin. Can. Res., 2012)。またtotal-Aktの発現頻度は84%、活性化は71%、Akt1, Akt2 isoformは70%であった、AKT1/AKT2遺伝子増加は13%, 25%に見られたが全てpolysomyで、増幅例は無かった(投稿中。2013年 日本病理学会、癌学会発表予定)。 3. mTORで変動する因子:microarrayで抽出した肺癌でmTORの発現により変動する因子は、扁平上皮癌でmTORと拮抗し、浸潤先端部で発現が高かった。4. arrayで抽出した肺癌でAKT1、AKT 2 の増幅により変動するmRNA, microRNA(miRNA)はオーバーラップがあり、転移、間質との相互作用に関与する蛋白、メチル化やK-rasの制御するmiRNAが得られた。5. AKT1、AKT2の多型と臨床的パラメータとの関連性の解析で、AKT1, AKT2の1多型部位と高血圧、肥満、糖尿病、AKT1のrs2498794で癌易罹患性に相関を認めた。
2: おおむね順調に進展している
1. 計画の中心の一つに据えたAKT1/2遺伝子と周辺に関する解析で、順調な進展を見た。昨年、ヒト肺癌における解析としては初のAKT1/2遺伝子増加と蛋白活性化を包括的に報告したが、今年度はAKT2遺伝子が主たる機能を司っていると考えられていた骨軟部腫瘍において予想しなかった新知見を報告した。肺とは全く異なる様式のAKT1/2遺伝子増加から臓器特異的遺伝子変化の多様性を示し、高頻度に見られたAkt1の核局在, Akt2の細胞質局在、AKT2遺伝子増加との予後との関連も見出せたことは意義がある。既に論文投稿中で、2学会で発表予定である。2.肺癌、骨軟部腫瘍ともにisoform としてのAkt1, 2 蛋白質過剰発現、活性化とAKT1,2遺伝子の数的変化の相関関係の解析まで行った。更にAkt3に関しても染色可能な抗体を入手し、予備実験を行ったところ、特に肺癌では発現頻度はかなり低く、Akt3の関与は深くないと予想するが、陽性例でFISH解析を予定している。25年度中に論文投稿予定である。3. mTOR系の変動因子の解析では、microarray解析から抽出した蛋白質の特異抗体を用いた免疫組織染色でmTORとの密接な制御関係を確認できた。同様の3D gene microarrayを使用して、更にその蛋白質により変動する遺伝子を抽出することも予定していたが、miRNA arrayで興味深いデータを得たので、そちらに力点を置くこととした(“今後の推進方策”欄-3.)。4. 多型解析はAKT1,2遺伝子に関してAffimetrix社SNPアレイを用いる浜松医大との共同で進めてきたが、本年度は都神経研の研究協力も得られたので、Illumina社のCytoSNPチップを用いた解析も加え、昨年度より更に詳細な臨床的パラメータをおいた結果、多型と諸因子の相関に関する有意差を得た。
1. 現在肺癌、骨軟部腫瘍ともにAKT3 の解析中であり、他の臓器の報告とは異なりその関与の可能性は高くない。しかし、少数でもAKT3遺伝子増加を示す一群を抽出すべく、連携研究者、協力者(金沢大学、東京医歯大)とBAC cloneを用いた、より感度と特異性の高いシステムを構築中で、FISH解析予定である。究極的には、より多数例でtotal-Akt, リン酸化Akt, Akt1-3 isoformsについてisoform-specific抗体を用いた解析により詳細な発現profileを明らかにし、FISHによる遺伝子解析の結果と蛋白質の異常の相関を確立する。2. Microarrayで抽出したmTOR下流因子の検索は、特異抗体を用いた肺癌全組織型における発現解析と、東大先端研や浜松医大等との共同で遺伝子導入、ノックアウトによる形質変化を解析予定である。当初の、この因子の下流因子も同様の方法で抽出する計画は、目的が散逸的になること、miRNA解析で興味深いデータを得て、そちらに力点を置くこと等により中断する。3. AKT1,2の増加に伴い変動するmiRNAを、mRNA arrayと共に解析したが、症例数を増やしたvalidation analysisを秋田大学と共同で既に開始した。validationが確認できたmiRNAについては導入、silencing実験を秋田大学、国立がん研究センターと共同で遂行予定である。変動mRNAに関しては昨年来行っているのと同様の方法で行う。4. 多型解析はAKT1の一部位で癌易罹患性に相関を認めたので、更に多数症例で肺癌特異的易罹患性の有無を明らかにする。また、AKT3遺伝子に関しても, ここ2年と同様にAffimetrix社、Illumina社製SNPアレイを用いた既述2施設との共同解析を開始する。
次年度使用額61万円は、当初予定しなかったmiRNA解析で今年度に良いデータを得たため、次年度にvalidation analysisを含めた解析を継続するために使用予定である。その他は、本研究申請時の計画通りであり、i)ヒト肺癌と骨軟部腫瘍におけるAkt/mTOR系の解析の発展と総括、ii)肺癌からmicroarrayにより抽出した遺伝子の機能解析が柱となる。i) ヒト腫瘍でのAkt-isoform発現解析はAkt1,2 に関してはほぼ終了した。Akt3に関しても昨年度の経費で既に特異的抗体を購入し、preliminary analysisは終了した。追加の解析に関する経費は二次抗体以降の試薬であり、3万円/100μlで年間50μl, 染色用は6.5万円/100mlキットを年間100ml, 9.5万円/125枚のCSAキットを年間50枚分と見積もっている。設備費は必要とせず、消耗品のみの今後の補充、新たな必要性から試算した。高額な遺伝子増幅解析用のBAC clone由来プローブは東医歯大より供与され、独自の節約マニュアルで、FISHプローブ作製に1ラベリングキット(8万円)を40切片分(納付書では20切片分)に使用し、年間70切片を想定している。Microarray解析は終了し、多型解析のSNPアレイ(約8万円/枚)を研究協力施設と連携しながら購入して、解析を進めるが、約7割方が終了しており次年度はデータ解析が主となる。培養系でsiRNA, cDNA導入、薬剤実験に費用を要するため、来年度に高額となる部分もあるが、今年度より繰越金で補える範囲である。旅費は例年通り学会、研究打ち合わせをそれぞれ2-3回想定している。論文校閲費(約5万円/論文)、”その他”の予算は年間5-8論文(自身が主著者となった論文は3-4)で算定した (本年度は13論文[自身が主著者は4論文])。
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