当該年度に実施した研究の成果発表については研究発表欄に記した。その具体的な内容としては、平成24年度は大腸炎発癌モデルとヒト潰瘍性大腸炎組織を用いて前癌状態(癌化高危険群の予測)、前癌病変(dysplasia)の診断と非浸潤癌から浸潤癌への各段階において関与している遺伝子などを解析することであった。腫瘍発生の高リスク群の抽出、さらにはUC発症や関連腫瘍の発生の機序の解明がまず始めるべき課題であると考えられた。そこで、研究期間内の目標のうちで上記事項に重点をおいた研究を進めた。 結論として、1)UC関連腫瘍の発育に関与が示唆されるREG Iαの免疫組織学的な発現形式は病変の質によって異なっており、UC関連腫瘍の診断に有用な補助マーカーであることを示すことができた、2)UC関連腫瘍における非腫瘍性直腸粘膜の免疫組織学的なDNMT1およびDNMT-3bの発現は腫瘍非合併症例の正常直腸粘膜における発現と比較し明らかに亢進していた。つまり、簡便な直腸生検によるこれらの免疫組織学的診断がUC関連腫瘍を合併する可能性のある高リスク患者を拾い上げる上で有用であることを示すことができた、3)大腸癌細胞においてIL-22はチロシンリン酸化STAT3及びNF-KBの活性化を介してDMBT1の発現を増強した。IL-22刺激によるDMBT1遺伝子のプロモーター活性化の責任領域は-187~-179に存在した。UC粘膜においてDMBT1及びIL-22 mRNAの発現は増強しており、両者は正の相関を示し、炎症を伴う上皮ではIL22陽性のリンパ球が増加し、IL-22及びDMBT1蛋白の発現が増強していた。つまり、IL22から誘導されるDMBT1は、UCの大腸粘膜の初期免疫において重要な役割を担っていることが示唆される、以上のことが主たる結果である。
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