研究概要 |
3年間にわたる本研究は、甲状腺乳頭癌の細胞異型や構造異型が形成される分子機構にα/β-およびγチューブリン(tubulin)が大きく関わっていることを明らかにすることを目的とした。 1)甲状腺乳頭癌由来培養細胞(KTC-1)を用いた研究 ①KTC-1培養細胞に対して細胞接着をさせることによって、乳頭癌細胞の特徴的核異型である核溝や核内封入体を形成する培養細胞系を作成した。②生細胞における核溝形成過程において、GFPラベルされたα-tubulinの密集部は常に核溝形成部位に近接していた。③KTC-1培養細胞の核溝形成部位において、核膜蛋白(emerin, LAP2, BAF (barrier-to-autointegration factor)とkeratinやactinとの結合性は伺えなかったが、α/β-tubulinとの結合が示唆された. 2)ヒト正常甲状腺組織および癌組織を用いた研究 ①正常濾胞やコロイドを含まない小型濾胞では管腔側細胞膜に近接する細胞質内にγ-tubulinの発現を認めた。②乳頭癌では、γ-tubulinは管腔側に発現するものの、基底側や側方に発現する細胞が混在した。③低分化で濾胞構造を形成しない乳頭癌では、γ-tubulinが不規則に発現したり、あるいは発現しない細胞が増加した。 以上の結果は、①甲状腺乳頭癌における核溝や核内封入体といった特異的核異型の形成、および②濾胞構造や乳頭状構造の形成、言い換えると細胞核極性の形成にα/β-およびγ-tubulinが大きく関わっていることを示す。
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