研究課題/領域番号 |
23590414
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
佐藤 雄一 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (30178793)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 肺癌 / 単クローン性抗体 / 自己抗体 / 血清 |
研究概要 |
1.樹立済み抗体を用いた患者血清との反応性の検討:神経内分泌肺癌由来細胞株を免疫源にランダム免疫法で樹立した単クローン性抗体196個を用い、肺癌患者血清27例と健常者血清8例との反応性をdot-blot法で検討し,その結果をROC解析した。その結果、健常人血清に比して肺癌患者血清中でのAUC値が0.6以上のものは40個で、0.7以上のものは4個、0.8以上のものは1個見出された。その中で、抗原同定した抗CAXII抗体に関しては多数例の血清を用いて、肺癌の早期血清診断マーカーになることを見出し報告した(PLoS ONE 7(3): e33952, 2012)。一方、シスプラチン耐性細胞株を免疫源に作製した抗体の中から、免疫染色、免疫ブロット法が可能な2個の抗体を選択し、抗原同定、抗癌剤治療効果の判定が済んでいる肺生検組織を染色し、腺癌における抗癌剤感受性を予測できる可能性のある抗体を選択した。現在、論文作成中。2.血清中の自己抗体を利用した腫瘍関連抗原の同定:2次元電気泳動法で同定した肺癌患者の自己抗体が認識した腫瘍関連抗原はそれぞれの組織型の肺癌で合計130個、86種類の腫瘍関連抗原を見出している。これら86種のタンパク質を合成し、PVDF膜にドットし、自動ドットブロット装置(MicroDot arrayer)上で肺癌患者血清27例(抗体の検索と同様の患者)、非腫瘍清肺疾患患者血清7例、健常人血清8例を一次抗体として反応させた。その結果、健常人血清に比して各種組織型の肺癌患者血清中でAUC値が0.6以上の抗原タンパク質を39種見出した。来年度は、多数の肺癌患者血清を用いた絞り込みを行う予定である。また、この方法で神経内分泌肺癌の小細胞癌と大細胞性神経内分泌癌を鑑別するHu-C, Hu-Dを見出し報告した(Int J Oncol 40: 1957-1962, 2012)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺癌特異的単クローン性抗体の患者血清との反応性の検討では、達成度は90%と考えられる。患者血清を用いた一次スクリーニングとしては、若干遅れており、現在まで約196個の抗体の同定を終えている。その理由として、一次スクリーニングの時点で興味のある抗体が見出された場合は、様々な追加実験を行い論文にまとめている(PLoS ONE 7(3): e33952, 2012)。また、同時に、予後の明らかな患者の肺癌組織との反応性を同時に見る検討も併せて行っており、研究期間内に幾つかの論文がさらに作製される予定である。来年度の一次スクリーニングと二次スクリーニングを組み合わせて、論文を作成しながら研究を進めていく。また、抗癌剤予測マーカーに対する樹立した抗体の治療前肺生検組織を用いた検討も行っており、プラチナ製剤への感受性予測可能と思われる3つのマーカーを同定している。現在論文の作成中である。血清中の自己抗体を利用した腫瘍関連抗原の同定の達成度は100%以上である。二次元電気泳動方を用いた検討で同定した86個の抗原タンパクを合成し、少数例の肺癌患者血清を用いた一次スクリーニングを終了した。一部の抗原タンパク質に関しては二次スクリーニングまで進んでいる。興味のある自己抗体が認識する腫瘍関連タンパク質に関しても抗体と同様に、その都度まとめて報告している(Int J Oncol 40: 1957-1962, 2012)。全体的には順調に研究が進んでいると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
1.樹立済みの抗体を用いた患者血清との反応性の検討では残っている樹立抗体の一次スクリーニングを継続的に行うことと、一次スクリーニングで健常人血清と比較して、肺癌患者血清でAUC値が0.6以上の抗体は、さらに多数例の肺癌患者血清、非腫瘍清疾患との反応性を二次スクリーニングとして行う。最終的に有用と考えられた分子に関しては、積極的に特許申請を行う。シスプラチン耐性予測マーカーとして樹立した抗体に関して、前年度に選択した3つの抗体に関して、治療効果の判定が出ている患者の抗癌剤治療前の血清を用いて、抗癌剤治療予測が可能か否か検討する。また、予後の明らかな肺癌患者の腫瘍組織を免疫染色し、病理学的有用性も併せて検討する。2.血清中の自己抗体を利用した腫瘍関連抗原の同定では、来年度は計画通り多数例の患者血清を用いた二次スクリーニングを中心に行う予定である。早期診断マーカーとして、有用と考えられた分子に関しては、特許申請を行うと同時に論文としてまとめる。また、二次元電気泳動法で同定した抗原タンパク質を合成し患者血清と反応させたところ、その約半分は患者血清とは反応しないことが明らかとなった。これは、肺癌患者血清中の自己抗体は腫瘍特異的翻訳修飾を受けたタンパク質に対する自己抗体である可能性があり、このことを明らかにする実験も追加して行う予定である。また、自己抗体が認識する抗原に関しては、精製抗体の購入もしくは当研究室で作製し、多数例の肺癌組織を免疫染色し、臨床病理学的検討も行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は当初の交付予定額である直接経費1,200,000円に加えて平成23年度未使用額の687,465円を加えた合計1,887,465円である。増えた分に関しては、H23年度に未達成の1.樹立抗体の患者血清との反応性の一次スクリーニングの検討に使用する物品の購入に当てると同時に、2.の自己抗体の検討では、自己抗体が認識する抗原タンパク質は二次スクリーニングで絞られるが、それらの肺癌組織中の局在等の検討のために新たに抗体を作製するか市販の精製抗体を購入する物品購入費用に当てる予定であり、全て物品費として使用する。その他、成果発表旅費を含めた他の金額に変更はない。
|