研究課題/領域番号 |
23590416
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
長尾 俊孝 東京医科大学, 医学部, 教授 (90276709)
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研究分担者 |
大城 久 東京医科大学, 医学部, 講師 (60381513)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 唾液腺 / 癌 / 病理学 / 発癌機構 / 悪性化 / 遺伝子 |
研究概要 |
多形腺腫は、唾液腺腫瘍の中で最も発生頻度の高い良性腫瘍である。近年、この腫瘍では染色体相互転座が高率に起き、それによってPLAG1遺伝子の増幅をきたすことが報告され、注目を集めている。一方、臨床病理学的に多形腺腫の約6%に当たる症例が悪性化することが知られており、そのような症例を多形腺腫由来癌と呼ぶ。本研究では、多形腺腫の悪性化における発癌機序の解明を目的に、組織標本を用いた形態学的・免疫組織化学的・分子病理学的解析を行っている。まず、多形腺腫由来癌症例の標本を組織学的に検討した結果、悪性成分の組織型の頻度は、唾液腺導管癌が最も高く、その他、腺癌NOS、筋上皮癌、未分化癌の順であった。さらに、多形腺腫と癌腫との境界部分では、癌細胞が多形腺腫の導管構造部分を置換するようにして増殖していた。筋上皮マーカーを用いた免疫組織化学的検討によって、癌細胞で置換された多形腺腫内の導管構造部は、腫瘍性筋上皮細胞によって縁どられていることがわかった。これらの結果から、癌細胞は多形腺腫の導管上皮細胞から発生したであろうことが示唆された。また、免疫組織化学的に、悪性成分は有意にKi-67陽性率が高く、悪性成分にのみp53とHER2/neuがびまん性に陽性であった。つぎに、多形腺腫由来癌25症例からDNAを抽出し、H-, K-, N-ras遺伝子のcodon12, 13および61の点突然変異の有無を検索したが、いずれの症例においても異常を見出し得なかった。今後、幅広く免疫組織化学的な癌抑制遺伝子産物、癌遺伝子産物、細胞周期関連蛋白、増殖因子、細胞接着分子、およびホルモンレセプターの発現様式に加えて、ISH法を用いたPLAG1遺伝子発現やFISH法による染色体相互転座の検索も引き続き行う必要がある。本研究内容は唾液腺癌の診断や遺伝子治療の基礎的データとして必要不可欠なものになると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
唾液腺多形腺腫の悪性化における発癌機序の解明を目的に、多形腺腫由来癌組織標本を用いた病理学的解析を行った。組織学的に悪性成分は高悪性度癌(唾液腺導管癌、腺癌NOS、及び筋上皮癌など)であり、癌発生の早期では既存の多形腺腫の導管を癌細胞が置換しながら増殖していた。また、免疫組織化学的に、癌成分は細胞増殖能が高く、p53とHER2/neuが高率に陽性であった。遺伝子解析では、H-, K-, N-ras遺伝子の変異はなかったが、癌成分にのみp53遺伝子のLOHと点突然変異が認められた。これらの結果は、本研究の目的には遠く及ばず、今後は、目的達成に向けて、さらなる組織標本を用いた形態学的・免疫組織化学的・分子病理学的解析を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、多形腺腫由来癌症例組織標本を用いた種々の癌抑制遺伝子産物、癌遺伝子産物、細胞周期関連蛋白、増殖因子、細胞接着分子、およびホルモンレセプターの発現様式、in situ hybridization法を用いたPLAG1遺伝子発現、およびFISH法による染色体相互転座やHER-2/neu遺伝子増幅の検索により、多形腺腫の多段階発癌機序の解明に多方面から迫る必要がある。さらには、de novo発生の唾液腺癌も上記と同様の検索を行い、多形腺腫を経て癌化したものとの比較検討を行うと共に、組織形態との関連性についても詳細な解析を加えていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
多形腺腫由来癌における癌抑制遺伝子産物、癌遺伝子産物、細胞周期関連蛋白、増殖因子、細胞接着分子、およびホルモンレセプターの発現を免疫組織化学的に検討し、良性部分と悪性部分との発現様式の差異について調べる。また、(1)In situ hybridization法やFISH法を用いて多形腺腫由来癌のPLAG1やHER-2/neu遺伝子の発現や染色体相互転座の検索を行う。(2) 症例標本から抽出したDNAを用いて、遺伝子変異(癌抑制遺伝子のLOHと点突然変異)とメチル化を検出する。(3) 症例標本から抽出したmicroRNAを用いて、そのサンプル発現のプロファイリングを行う。などの遺伝子的解析を推進していく。
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