研究課題/領域番号 |
23590418
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
定平 吉都 川崎医科大学, 医学部, 教授 (30178694)
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研究分担者 |
秋山 隆 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (80294411)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | スフィンゴシン-1-リン酸受容体 / 白血病 / リンパ腫 / FTY720 / STAT3 |
研究概要 |
1.悪性リンパ腫症例のスフィンゴシン-1-リン酸受容体(S1PR)の発現量と臨床病理学的パラメーターとの相関性の検討について,B細胞リンパ腫,T細胞リンパ腫,NK細胞リンパ腫症例のホルマリン固定パラフィン包埋切片(FFPE)を用いて,S1PRの定量的RT-PCRが可能か否か検討した。その結果,アンプリコンサイズが100bp以下のプライマーを用いるとFFPEでもS1PRが定量的に解析できることが確認された。さらに,腫瘍細胞のS1PR1の染色性が,内在性コントロールである血管内皮細胞の染色性に比較して明らかに低下しているマントル細胞リンパ腫3症例について,その臨床病理学的特徴を調べた。その結果,3症例はいずれも,末梢血に異型的なリンパ球の出現と強い骨髄浸潤像を示すleukemic variantであった。2.さらにS1PRに特異的な拮抗薬であるFTY720が腫瘍細胞株の細胞遊走能,細胞増殖に対してどのような効果があるかをin vitroで調べた。5つのHTLV-1感染T細胞株のうちMT-2とHUT-1030の2株がウエスタンブロットでS1PR1陽性であり,同時にSTAT3が恒常的に活性化していた。MT-2のFTY720(5-20 uM)の高濃度の添加培養では,濃度および時間依存性にSTAT3-Y705のリン酸化の抑制がみられたが,STAT3-S727のリン酸化には影響は見られなかった。24時間後では細胞増殖や生存が低下し,CD25発現には変化がなかったがFOXP3の発現は著しく低下しており,形態学的には細胞突起が消失していた。高濃度のFTY720-Pでは,このような効果は認められなかった。3.ATLL症例では20%の症例が免疫組織学的にS1PR1陽性であり,それらの症例においては腫瘍細胞と間質の血管内皮細胞の核にSTAT3-pY705の陽性所見が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.倫理委員会の許可のもと,リンパ造血器腫瘍症例を川崎医科大学附属病院病院病理部の病理診断システムのデータベースよりその臨床病理学的パラメーターとともに抽出した。2.リンパ造血器腫瘍症例のホルマリン固定パラフィン包埋切片の定量的RT-PCRと抗S1PR1ウサギ抗体による免疫組織化学を用いて,ヒト組織におけるスフィンゴシン-1-リン酸受容体(S1PR)の発現を後方視的に検索する方法,およびヒトS1PR1の動態を細胞レベルで検出する系を確立した。これらは,今後治療薬として応用が期待されるS1PR1拮抗薬の適応判定や治療効果判定にも応用可能と思われる。3.マントル細胞リンパ腫(MCL)症例の定量的RT-PCRと免疫組織化学を用いた解析により,S1PR1の発現低下がMCLの白血化と関連している可能性を示した。4.さらにS1PRに特異的な機能的拮抗薬であるFTY720が腫瘍細胞株の細胞遊走能,細胞増殖に対してどのような効果を有するかをin vitroで調べ,5μM以上のFTY720が,STAT3の恒常的活性化を抑制することを発見した。また,一部のS1PR1陽性の成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)症例では,STAT3が恒常的に活性化している可能性を示した。 以上,STAT3はS1PR1の転写を亢進することも報告されており(Nat Med 2010),S1PR1陽性でSTAT3が恒常的に活性化しているリンパ造血器腫瘍(たとえば成人T細胞白血病)の抗腫瘍薬としてFTY720を使用できる可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
1.リンパ造血器腫瘍症例のホルマリン固定パラフィン包埋切片の定量的RT-PCRと免疫組織化学を用いて,さらにヒト白血病・リンパ腫におけるスフィンゴシン-1-リン酸受容体(S1PR)の発現を後方視的に検索し,S1PR発現の臨床病理学的意義を見出す。2.高濃度のFTY720はSTAT3が恒常的に活性化している腫瘍細胞の増殖を抑制する可能性が示されたが,さらにFTY720以外のスフィンゴシン-1-リン酸受容体(S1PR)拮抗薬がリンパ造血期腫瘍の新しい治療薬として使用できるか否かについて検討することが必要である。(1)FTY720の抗腫瘍効果のメカニズムについて,in vivoで検証する。すなわち,FTY720投与後の腫瘍の増殖能やアポトーシスを調べる。また,S1PR1の動態をマウスの正常組織や腫瘍細胞で検討する。さらに,組織レベルでのSTAT3やAktの活性化の状態を調べる。(2)FTY720以外のS1PRに特異的な拮抗薬が,腫瘍細胞の細胞増殖や細胞遊走能に対してどのような効果があるかをin vitroおよびin vivoでも調べる必要がある。すなわち,SCIDマウスに移植した悪性リンパ腫・白血病細胞株の腹腔内での増殖および他臓器への浸潤・転移に対するS1PR拮抗剤投与の効果を検討し,S1PR1の動態やSTAT3・Aktの活性化の状態を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.さらにヒト白血病・リンパ腫症例におけるスフィンゴシン-1-リン酸受容体(S1PR)の発現を定量的RT-PCRと免疫組織化学を用いて検討する。2.FTY720以外のスフィンゴシン-1-リン酸受容体(S1PR)に特異的な拮抗薬が,リンパ造血器腫瘍細の細胞遊走能や細胞増殖に対してどのような効果があるかを,まず,in vitroで調べる。具体的には,S1PRのうち高発現を示す腫瘍細胞の組織型に相当する腫瘍細胞株にS1PRの拮抗薬を加え,(1)トランスウェルを用いる細胞遊走能の測定,(2)Cell Counting Kitによる細胞増殖能の検討,(3)Annexin Vによるサイトメトリーと活性化型カスペース3の染色によるアポトーシスの測定を行う。3.FTY720が,リンパ造血器腫瘍の浸潤をin vivoの系でも抑制するか検討する。具体的には,SPFの状態で飼育しているICR SCID マウス(7-9 週令) に,S1PR拮抗薬(FTY720)を腹腔内に投与する(the guidelines of the animal care and use committee of Kawasaki Medical Schoolに従う)。次いで,Debesらの方法に従って,リンパ腫・白血病細胞株をCFSE (Molecular Probes)で標識し,静脈注射し,腹腔内に浸潤したものの数をflow cytomertyで測定する。4.次年度使用額310,110円については,すでに該当年度に行われた海外学会(USCAP 101th annual meeting, バンクーバー,2012年3月17-23日)の旅費・参加費に割り当てられる。5.今年度請求の研究費に付いては,1~3を行うため試薬やマウス等の消耗品購入、研究補助員の技術講習会参加費、研究協力者の学会参加費、論文投稿費に充てる。
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