研究課題/領域番号 |
23590418
|
研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
定平 吉都 川崎医科大学, 医学部, 教授 (30178694)
|
研究分担者 |
秋山 隆 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (80294411)
|
キーワード | スフィンゴシン-1-リン酸 / FTY720 / 低酸素環境 / リンパ腫 |
研究概要 |
1)近年,低酸素環境における腫瘍の薬剤耐性の機構に注目が集まっている。われわれは,S1PRの機能的抑制剤であるFTY720のATLLへの治療応用の可能性を探る目的で,S1PR1陽性でSTAT3の恒常的活性化がみられる HTLV-1感染T細胞株(MT2)に対する低酸素環境(1%O2)の影響と,それに対するFTY720の影響を調べた。その結果,①T-regの形質(CD4+,CD25+,FOXP3)を有する HTLV-1 感染T細胞5株において,S1PR1の高発現とSTAT3のチロシンリン酸化に関連性を認めた。S1PR1とFOXP3の発現に関連性は見られなかった。②HTLV-1 感染T細胞株において,HIF-1αは恒常的に活性化していた。③MT2細胞では,低酸素環境でも高濃度(μMオーダー)のFTY720で,caspase-3を介したアポトーシスが誘導されたが,20%O2に比較するとFTY720に対する感受性が軽度低下した。④高濃度のFTY720でFOXP3 mRNAの発現は20%まで減少し,免疫染色でもFOXP3の核陽性所見は減弱した。⑤MT2を低酸素環境で培養すると,HIF-1αタンパクはやや増量し,S1PR1・STAT3・FOXP3の発現亢進がみられた。⑥高濃度のFTY720では,20%O2および1%O2いずれにおいてもSTAT3のチロシンリン酸化の抑制がみられ,STAT3の標的遺伝子であるS1PR1, CCND1の発現が抑制された。したがって,FTY720投与は,STAT3のチロシンリン酸化を抑制することで低酸素環境でのATL細胞の細胞増殖や転移またT-reg細胞としての機能を抑制することで,抗腫瘍効果を発揮する可能性を示唆している。 2)免疫染色で,S1PR5が単球系白血病や扁平上皮癌で高発現していることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)当初の計画では、FTY720の抗腫瘍効果をin vivoで検討する予定であったが、近年,低酸素環境における腫瘍の増殖や転移を抑制する薬剤の開発に注目が集まっており,われわれも,造血器腫瘍の低酸素環境での腫瘍の増殖や細胞走化性におけるS1P/S1PRシグナルの役割に興味を持ち,低酸素環境でのMT2細胞株へのFTY720の影響について詳しく調べた。その結果,S1P/S1PRシグナル拮抗剤であるFTY720は,STAT3のチロシンリン酸化を抑制することで,低酸素環境の腫瘍細胞にも有効であることを示唆する結果が得られた。骨髄においては、腫瘍幹細胞が正常幹細胞と同様に低酸素環境に存在していることが想定されており、これが薬剤抵抗性の原因の一つと考えられているので、今回の検討は、薬剤のin vivoでの効果の検討に至るまでの重要なstepであると考えられる。 2)免疫染色によって、これまで報告されているNK/T cell lymphomaのみならず単球系白血病細胞もS1PR5を高発現していることが判明したことは、S1PR拮抗剤の更なる応用拡大への糸口となると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
1)T-reg 細胞あるいはT-reg の形質を有する腫瘍細胞におけるS1PR1とFOXP3発現の相関性について,実際の臨床検体を用いて調べる。 2)FTY720以外のS1P/S1PRシグナル特異的拮抗剤が,造血器腫瘍の細胞増殖や細胞遊走能に対してどのような効果があるかをin vitroでさらに調べる必要がある。特にSlPR1あるいはS1PR5を高発現する腫瘍細胞株にSlPRのsiRNAを導入し,定常状態あるいは低酸素環境での細胞増殖能、細胞遊走能への影響を調べることで,S1PRの直接的な役割を検証する必要がある。 3)FTY720の抗腫瘍効果のメカニズムについて,in vivoで検証する。すなわち,FTY720投与後の腫瘍の増殖能やアポトーシスを調べる。FTY720投与後のS1PR1の動態をマウスの正常組織や腫瘍細胞で検討する。さらに,FTY720投与後の組織レベルでのSTAT3やAktの活性化の状態を調べる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
1)ATL症例パラフィン切片でのS1PR1とFOXP3の免疫二重染色を行う。 2)リンパ造血器腫瘍細胞株の定常状態と低酸素状態での細胞機能(細胞増殖能,細胞遊走能,FOXP3の発現増強)への,S1PRに対するsiRNA導入の影響を検討するために,イメージサイトメトリーのよるアポトーシスの測定,トランスウェルによる細胞走化性の測定,リアルタイムPCRによるmRNAの定量,ウエスタンブロットを行う。 3)SCIDマウス腹腔内に,SlPR1あるいはS1PR5を高発現する悪性リンパ腫株あるいは自血病細胞株を移植し,腹腔内での細胞増殖および他臓器への浸潤・転移に対するFTY720を含むSlPR阻害剤の効果を,病理組織学的検討する。 4)次年度使用額8,024円については,すでに購入した試薬の支払いに充てる。 5)25年度請求額は,上記1)~3)を行うための試薬(染色・測定キットや抗体など)の購入,マウス等の消耗品購入,論文投稿費,研究協力者の学会参加費に充てる。
|