研究課題/領域番号 |
23590419
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
岩崎 宏 福岡大学, 医学部, 教授 (90101170)
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キーワード | 骨軟部腫瘍 / 肉腫 / 腫瘍幹細胞 / 染色体分析 |
研究概要 |
(1) ヒト肉腫組織の病理学的検討。本年度は粘液型脂肪肉腫で脂肪腫様の高分化成分を伴うものと、高分化脂肪肉腫の粘液変性との違いについて、免疫組織化学的に検討し、前者ではCDK4,MDM2が陰性であるのに対し、後者では陽性であり、両者の発現プロファイルが全く異なることから、起源を異にすると考えられた。 (2) 多くのヒト肉腫細胞系について,染色体・遺伝子分析を施行した。未分化多形肉腫(悪性線維性組織球腫 malignant fibrous histiocytoma; MFH)には二つの系列があり、未分化間葉系細胞から生ずるde novo MFHの系列と分化した肉腫から脱分化を生じてMFHへと変化する系列の存在が考えられた。染色体分析で、前者は多数の複雑な異常を示したが、後者特に脱分化型脂肪肉腫由来の腫瘍では巨大マーカー染色体が認められた。また後者ではしばしばCDK4とMDM2の増幅があったが、前者ではほとんど見られなかった。 (3) 肉腫発がん実験として、GFP発現グリーンマウスから採取した骨髄細胞を,骨髄抑制したマウス (C57BL/6)の尾静脈から注射して移植し,さらに背部皮下に 3-メチルコラントレン(3-MC)を投与すると局所の肉芽組織の小血管周囲に腫大した間葉系細胞が出現し,経過を追うと16~20週で多形型MFH類似の高悪性度の肉腫が発生し、約1/4のマウスで腫瘍細胞がGFPを発現した。発生した肉腫の多くはMFHに類似していたが、一部のマウスでは線維肉腫や横紋筋肉腫に類似した腫瘍も発生した。肉腫の起源をさらに明らかにするためのin vitro発がん実験として,グリーンマウスから骨髄間葉系幹細胞を回収し, 3-MCに 1週間暴露した後,さらに培養をつづけたところ、トランスフォームした細胞が得られ、in vivoの発癌実験で得られた肉腫細胞と同様の形態を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のごとくヒト軟部肉腫の病理学的検討,ヒト軟部肉腫の培養細胞系の分析,および 肉腫発がん実験について,当初の計画はほぼ達成されている。これらの研究結果から,未分化多形肉腫(悪性線維性組織球腫 malignant fibrous histiocytoma; MFH)の発生には二つの系列があり、未分化間葉系細胞から生ずるde novo MFHの系列に加えて、分化型肉腫から脱分化型肉腫が生じ,さらにMFHへと変化する系列が存在する可能性が考えられた。また、一部の肉腫の発生には骨髄由来間葉系幹細胞(bone marrow-derived MSC)の関与が考えられたが,局所の間葉系細胞 (resident MSC) が腫瘍化する経路も存在すると推測される。さらに、粘液型脂肪肉腫で脂肪腫様の高分化成分を伴うものと、高分化脂肪肉腫の粘液変性との違いについて、免疫組織化学的に検討し、両者の発現プロファイルが全く異なることから、起源を異にすると考えられた。本研究では,従来不明であった肉腫の組織起源を明らかにする上で,有用なデータが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)肉腫の起源をさらに明らかにするために,骨髄由来間葉系幹細胞の in vitro発がん実験を推進する(2)ヒト軟部肉腫の病理学的検討について,さらに例数を増やして免疫組織化学的検索を行う。(3)脂肪肉腫の粘液型で高分化成分を伴うものと、高分化脂肪肉腫の粘液変性との相違と起源を明らかにするために、培養細胞系の分析および組織切片について、fluorescence in situ hybridization (FISH)を施行し,細胞遺伝学的異常をより詳しく分析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究経費は主として消耗品費に当てられる。ヒト軟部腫瘍の病理学的検討のためには,組織標本作製,免疫組織化学的検索に必要な試薬や抗体を必要とする。 細胞培養のためには培地等の試薬とウシ胎児血清を要する。幹細胞マーカーおよび間葉系細胞マーカーの発現を検索のための免疫組織化学用の抗体・試薬を要する。遺伝子分析にはRT-PCR, FISH, 染色体分析用試薬を必要とする。またこれらの実験のためにガラス器具、プラスチック・チューブ、フィルター等の消耗品を要する. その他,研究成果の発表のための論文投稿料や別刷印刷代等を要する。 このように経費の大部分は,実際の実験に必要な消耗品費に当てられており,積算根拠は妥当なものである。
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