本年度はヒト肉腫の追加検索を行い、特に脂肪腫様の形態を示す粘液型脂肪肉腫の本態と起源を解明するために、自験例軟部腫瘍ファイルとコンサルテーションファイルを検索し、本腫瘍8例を抽出し、通常の組織学的および免疫組織学的検索に加えて、染色体分析、FISH分析、RT-PCR分析を行った。対照例として通常型粘液型脂肪肉腫11例、高分化型脂肪肉腫4例、脱分化型脂肪肉腫6例についても同様に検討した。 組織学的に脂肪腫様粘液型脂肪肉腫は腫瘍の30%~90%が成熟脂肪細胞からなり、高分化型脂肪肉腫に類似していたが、免疫組織化学的にMDM2およびCDK4は陰性であった。粘液状部は通常の粘液型脂肪肉腫と同様の形態を示していた。染色体分析では脂肪腫様粘液型脂肪肉腫は通常の粘液型脂肪肉腫と同様に特異的染色体転座t(12;16)(q13;p11)を示し、組織切片のFISHでDDIT3のbreak apartが認められ、さらに全例で特徴的な融合遺伝子FUS-DDIT3が検出された。脂肪腫様粘液型脂肪肉腫の脂肪腫様の部分と粘液状の部分はいずれもDDIT3のbreak apartとFUS-DDIT3を示し、同一の遺伝子異常を有することが明らかとなった。これに対して、高分化型脂肪肉腫と脱分化型脂肪肉腫はMDM2およびCDK4に陽性で、余剰環状染色体と巨大マーカー染色体を有していたが、t(12;16)(q13;p11)やDDIT3のbreak apartはなく、FUS-DDIT3も陰性であった。 これらの所見から、脂肪腫様粘液型脂肪肉腫と高分化脂肪肉腫は類似の組織像を示すが、免疫組織化学的発現パターン、および染色体・遺伝子異常は全く異なることが明らかとなった。脂肪腫様粘液型脂肪肉腫は通常の粘液型脂肪肉腫と同一の染色体・遺伝子異常を示しており、両者が同一起源の腫瘍であることが明らかとなった。
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