研究課題/領域番号 |
23590423
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
吉岡 年明 秋田大学, 医学部, 講師 (80302264)
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研究分担者 |
大森 泰文 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90323138)
山本 洋平 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70400512)
榎本 克彦 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20151988)
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キーワード | 肝転移 / Heregulin / 肺転移 / 分子標的療法 |
研究概要 |
本研究では以下の3点, 1) 大腸癌肝転移の際に, 肝細胞がHeregulin(HRG)を産生するメカニズム, 2) 大腸癌肝転移細胞が発現するErbB3(HRGのレセプター)やErbB2に対する分子標的療法の検討, 3) 大腸癌における肝転移および肺転移特異的遺伝子・分子の同定とそのメカニズムの解明を目的とする. 目的1)では,ヒトでのHRG産生を確認するため,当院で肝転移切除された手術検体(53症例)を免疫組織的に検討し,47例(88.7 %)に,転移巣周囲の,直接傷害された肝細胞ではなく,その周囲の肝細胞にHRGの発現を確認した.そのうちの20症例で,肝転移腫瘍から2 cm以内(近位)とそれより離れた(遠位)肝細胞のHRG産生を比較し,70 %(14例)に,近位の肝細胞での増加を認めた.[第71回日本癌学会総会(2012年)で報告].このことから,肝転移した癌細胞が周囲の肝細胞に傷害を与え,傷害した肝細胞の周囲の肝細胞からHRGが産生される可能性が示唆されたため,ラットにジメチルニトロソアミン(DMN)を投与し, 定量性RT-PCRおよび免疫組織染色で調べたところ,DMNにより傷害を受けた中心静脈周囲の肝細胞ではなく,その周囲の門脈域の肝細胞にHRG産生を確認し同様の結果を得た. またラット部分肝切除でも,残肝でHRGの発現上昇を確認したことから,肝細胞が産生するHRGは,肝傷害のみならず肝再生にも関与する可能性が示された[第101回日本病理学会総会(2012年)で報告]. 目的2)では,共同研究者が作製した新規ErbB3抗体に検討を加え,新規抗体は大腸癌細胞のHRGによるErbB3のリン酸化を阻害すること,ヒト組織中の大腸癌細胞を認識することを確認した. 目的3)では, 高肺転移ヒト大腸癌細胞の作製を継続中で,次年度中に細胞株を樹立し検討する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の目的1)に関しては,HRGはマウスの肝転移のみならず,ヒトの肝転移の際も,転移巣周囲の肝細胞から産生されること.また,肝転移した癌細胞が周囲の肝細胞に何らかの傷害を与えた結果,傷害を受けた肝細胞の周囲の肝細胞からHRGが産生されることが判明し, HRG産生のメカニズムの一端が明らかになった.さらに,肝細胞が産生するHRGは,肝傷害時のみならず,肝再生時にも関与する可能性が示された.これらの知見は,前述の2回の全国学会で報告することができた. 今年度に予定していた高肝転移大腸癌細胞と親株細胞のDNAマイクロアレイでの検討は,次年度に行なうこととなった.この点以外では平成24年度に予定していた目的1)のための計画はほぼ達成したと考える. 研究の目的2)に関しては,共同研究者が作製した新規ErbB3抗体に検討を加え,新規抗体は大腸癌細胞のHRGによるErbB3のリン酸化を阻害すること,ヒト組織中の大腸癌細胞を認識することを確認し, 新規抗体が分子標的薬となりうる可能性を示した.今後新規ErbB3抗体が腫瘍細胞に与える影響などを詳細に検討し,分子標的薬となりうるのかを調べていきたい. 既存の分子標的薬を用いた腫瘍細胞への影響の検討はまだ行なっていない. 研究の目的3)に関しては,高肺転移ヒト大腸癌細胞の作製を継続して行い,次年度中の細胞の樹立をはかっており,予定から遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度および24年度に得られた結果を基にして以下の検討を行なう. 研究の目的1)に関しては,転移した癌細胞の何によって,また何のために肝細胞がHRGを産生するのかが明らかになっておらず,この点を次年度に検討したい.また目的1)の解明ために予定していた高肝転移大腸癌細胞と親株細胞のDNAマイクロアレイでの検討は,親株細胞,高肝転移細胞および高肺転移細胞の三者でDNAマイクロアレイを行なうことに変更したため,高肺転移ヒト大腸癌細胞の樹立を待ってから行なうこととした.これらを次年度で行い,検討と解析を進め,HRG産生に関与する可能性のある遺伝子に関しては,分子・蛋白レベルまで検討する.さらにマウス初代培養肝細胞を用いて,それらの分子についてshRNAにより発現を抑制してHRG産生への影響を確かめる. 研究の目的2)については,新規ErbB3抗体の分子標的薬としての可能性を引き続き検討することを中心に行う. 新規ErbB3抗体を用いて,また既存の分子標的薬を入手することができたならば,これらを用いて,高肝転移細胞LS-LM6に対するその効果をin vitroで確かめ,効果が確認された場合は,SCIDマウス大腸癌肝転移モデルを用いて,in vivoにおける肝転移抑制効果とそのメカニズムを検討する. 研究の目的3)に関しては,高肺転移ヒト大腸癌細胞の作製を今年度より継続して行い,次年度中の細胞の樹立をはかる.その上で,上述した親株細胞,高肝転移細胞および樹立した高肺転移細胞の三者でDNAマイクロアレイを行なうことに変更した.これにより,肝転移や肺転移に特異的な遺伝子・分子がより明確になると考える.また,研究費の支出を抑えることが可能である.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の目的1)のための実験に関して,肝細胞のHRG産生を促す,肝転移大腸癌からの因子の検索のため, サイトカインアレイなどを行なう.さらにHRG投与によるマウスまたラット初代培養肝細胞に対する影響を検討する.HRG産生に関わる可能性のある分子については,マウス初代培養肝細胞に対して,遺伝子導入により強制発現させ,またshRNAにより発現を抑制し,HRG産生への影響を検討する.そのため, サイトカインアレイ,マウス・ラット購入費用とともに,サイトカイン, recombinant HRGβの購入,DNA作製またshRNA作製のための費用などが必要である. 研究の目的2)のため,新規ErbB3抗体や既存の分子標的薬に対して,はじめにin vitroで実験を行い,効果が確認された場合は,SCIDマウスを用いてin vivoにおける肝転移抑制効果とそのメカニズムを検討する.そのため,SCIDマウス購入の費用が必要である. 研究の目的3)のため,SCIDマウスを用いた高肺転移ヒト大腸癌細胞の作製を継続して行い,次年度中の細胞の樹立をはかる.また樹立した高肺転移細胞と親株細胞および高肝転移細胞を加えた三者間でDNAマイクロアレイを行い,大腸癌の肺転移や肝転移に特異的な遺伝子・分子の候補を検討する.そのためのSCIDマウス購入の費用とDNAマイクロアレイを施行し解析するための費用を予定している.また目的1), 2), 3)のための研究を行なう上で必要な,RT-PCR用プライマーや抗体などの分子生物学的実験のための試薬購入も予定している.
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