研究課題
京都大学では、肝移植開始後約20年、約1400例の蓄積がある。移植後10年経過後も、グラフト不全に至る例がある一方で、免疫抑制剤が減量、中止でき、グラフトの組織学異常を示さない免疫寛容群が存在するが、免疫寛容に至る理由は不明である。患者由来の免疫担当細胞による拒絶が回避されるのは、グラフトにレシピエント細胞が共存するキメリズムの成立も一因と考えられるが、キメリズムの成立を調べた報告は少ない。また、長期経過後、グラフト不全が徐々に進行する例はグラフトの老化との関連も示唆される。肝移植後のキメリズムの成立およびグラフト老化の検討のため、京大病院病理データベースから肝移植後8年以上経過した患者のうち、ドナーの肝臓や移植後長期の生検が入手可能な例を抽出した。移植後長期安定し、免疫抑制剤減量中の患者10例(安定群)と移植後肝機能異常があり、グラフトに組織学的変化をきたしている患者7例(グラフト不全群)を抽出した。ホルマリン固定パラフィン切片を用いて、肝細胞核をマイクロダイセクションで捕捉した。抽出したDNAを用いて、マイクロサテライトタイピングを行ったところ、約半数の症例にキメリズムを認めた。安定群とグラフト不全群に差はなかった。異性間移植例でXY染色のFISHを用いて検討したところ、両群でキメリズムの有無、程度に差はなかった。今後、免疫組織化学法も加え、グラフトの老化とキメリズムの成立について更に検討を加えていく予定である。
3: やや遅れている
ホルマリン固定パラフィン切片を用いた検討であるため、FISH法、DNA抽出などの手技の確立に時間を要した。
さらに症例を増やし、各群の自動タイピングを進めると同時に、免疫組織化学法により老化関連マーカーであるγ-H2A.X蛋白やp16, p21などの抗体を用いて、安定群とグラフト不全群で、ドナー肝を起点に、グラフトの老化の進行の有無、キメリズム成立との関連を検討したい。
肝細胞核を正確に選択、捕捉するために、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションを受託する費用、核酸抽出キット、PCR関連試薬、in situ hybridization を行うプローブ、免疫組織学的検討に用いるモノクローナル抗体などの物品費が主な用途となる予定である。また、さらに研究の進展、患者への還元を目指すために、国内で知見を発表し、他の研究者との意見交換をする機会を持ちたい。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)
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