研究課題
腫瘍幹細胞は、治療抵抗性の腫瘍細胞で、腫瘍集団の一部にのみ存在するとされているが、その確たるマーカーが少なく、実態の把握は困難である。これまでの研究で、子宮類内膜細胞癌でアルデヒド脱水素酵素(ALDH)1A1が腫瘍幹細胞マーカーとして有用であることを報告した。また、肺腺癌でorphan nuclear receptorであるNR0B1もマーカーとなり得ることを報告した。そこで、本年度は子宮類内膜細胞癌において、ALDH1A1の発現を制御する因子について解析した。ALDH1A1のプロモーター領域ではOct-1とNFYAが結合する領域に変異を加えると、ALDH1A1の転写は有意に抑制され、両転写因子が、ALDH1A1の転写に関与することが示された。ところが、免疫染色にてALDH1A1とOct-1, NFYAの発現を検討すると、必ずしもALDH1A1陽性細胞のみが両転写因子を発現しているわけではないことがわかった。詳細に解析した結果、NFYAには二種類のアイソフォームがあり、短い方のアイソフォームがALDH1A1の転写を活性化していること、ALDH1A1陽性細胞では、このアイソフォームが有意に発現していることが明らかとなった。以上の結果より、ALDH1A1の転写を活性化する因子を同定することができた。さらに、NR0B1については、肺腺癌細胞株で検討した結果、PPAR-gammaと相互作用することがわかり、その意義については、次年度に解析することとなった。また、悪性リンパ腫についても腫瘍幹細胞的な性格をもつ細胞について、活性酸素(ROS)を除去する能力に着目して検討し、これまでにホジキンリンパ腫細胞において, in vitro colony形成能およびNOD/Scidマウスへの移植により確認した。その結果、ROS除去能力の高い細胞では造腫瘍能も高いことがわかった。
2: おおむね順調に進展している
今年度の計画の一つであるALDH1A1の転写調節機構を明らかにすることができ、NFYAのアイソフォームが関与していることを報告することができ、予想以上に進展させることができた。さらに、NR0B1とPPAR-gammaの相互作用も見出すことができ、次年度にその意義を解析する予定である。ニッチについても、現在解析をすすめており、おおむね計画は順調に進展している。
NR0B1とPPAR-gammaの相互作用について、まず相互作用に必要なNR0B1のドメインを決定する。次に、相互作用に必要なドメインに変異を加えた変異体を利用して、NR0B1とPPAR-gammaの相互作用の意義を解析する。また、ニッチについても、ALDH1A1を発現する細胞の周囲の状況を解析する。
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め当初予定通りに計画を進めていく。具体的には消耗品、情報収集あるいは成果発表のための国内旅費、研究成果発表費用(投稿料)に用いる予定である。
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