研究課題
中皮腫はアスベスト暴露が原因となって数十年という長期の潜伏期を経て発症する予後不良の悪性腫瘍である。中皮腫は組織学的に上皮型と肉腫型に分類されるが、肉腫型の予後は特に不良である (Neumann V et al. Int Arch Occup Environ Health 74: 383-395, 2001)。ERC/Mesothelin(以下ERCと略)は最近注目されている中皮腫の診断・予後判定に利用できる腫瘍マーカーである。順天堂大学付属病院では、中皮腫外来を開設し患者血清中のERCを測定して中皮腫の診断・予後判定に役立てている。私たちは中皮腫組織の免疫染色にて、全例でERC発現陽性となる上皮型でも、発現のない肉腫型でも、同様にERCプロモーターが低メチル化状態であることを明らかにした。肉腫型中皮腫では、ERCプロモーターが低メチル化状態であるのになぜ同遺伝子の発現レベルが低いのか? 我々はその理由として、ERCに関する既報文献 (Cristaudo et al. Occu Environ Med 67: 233-6, 2010) に基づいて数個のmicroRNAの関与に注目し、同遺伝子の発現制御機構解明を進めている。
2: おおむね順調に進展している
ERC/mesothelin遺伝子の3'非翻訳領域(約100塩基長)には、データベース上7つのmiRNAのターゲット配列が存在する。そのうち同遺伝子の発現状態と逆相関関係を示すmiRNAに注目し、合成類似配列(mimics)および合成阻害配列(inhibitors)を細胞に導入してERC/mesothelin遺伝子発現におよぼす影響を調べた。現在までに、miR1271-3pは、そのmimicsを細胞に導入することにより有意にERC/mesothelin遺伝子の発現レベルを低下させ、同遺伝子の発現制御に関与している可能性が示された(投稿準備中)。
miR1271-3p以外の全てのmiRNAについても上記と同様の解析を行なう。また、Promega社製ベクター(pmirGLO)にERC/mesothelin遺伝子3'非翻訳領域全長を挿入し、レポーターアッセイの系を確立してmiRNAとそのターゲット配列との相互作用を確認する。同遺伝子発現制御におけるmicroRNAが明らかになれば、中皮腫の発生過程、上皮型・肉腫型への分化過程の解明、およびmicroRNAを用いた臨床治療にもつながる可能性がある。
該当なし
すべて 2014 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
J Gastroenterology
巻: 49 ページ: 81 -92
10.1007/s00535-013-0773-6
生体の科学
巻: 63巻第2号 ページ: 129-132