研究概要 |
[目的] 中皮腫は組織型により上皮型と肉腫型 (後者の方が予後不良) に分類される。男性では女性に比し肉腫型の頻度が高く、また上皮型に限れば女性の方が予後がよい。このように中皮腫の病態には性差が認められる。最終年度は、中皮腫病態の性差の分子機序解明を試みた。我々は今までに、中皮腫のマーカーとなるERC/Mesothelin (以下ERCと略)の発現量は男性中皮腫症例で女性例よりも高く、また同mRNAの発現を制御するmir-1271-3p量は女性例で高い傾向があることを報告した。今年度は、培養細胞を用いて性ホルモンのERC発現に与える影響を調べた。 [方法] 2x10の5乗個の中皮腫培養細胞(MESO4, H226, 211H)および肝細胞癌培養細胞(Huh7)を6 cmプレートに撒き24時間後にβ-estradiol (10 nM, 100 nM)およびtestosterone enanthate (100 nM, 1 μM)を加え、その48、72時間後に細胞を回収して、ERC mRNA発現量を real-time PCRで定量した。(β-estradiol、testosterone enanthateともにエタノールに溶解) [結果] 4種の培養細胞すべてにおいてVehicle (1% ethanol)に比してβ-estradiol (100 nM, 72時間)処理時にERC mRNAの発現量は約半分に低下した。肝細胞癌株 Huh7では、testosterone enanthate (1 μM, 72時間)処理によりERC mRNA発現量は増加したが、3つの中皮腫細胞培養株においてはそのような効果は認められなかった。なお、Vehicle (1% ethanol)投与のみでも中皮腫細胞株3種ではERC mRNA発現量が増加したが、Huh7ではそのような変化は認められなかった。 [考察] β-estradiol処理によりERC遺伝子発現量が低下するという実験結果は、中皮腫症例において女性例で組織中のERC発現量が低いという観察結果と一致する。また、中皮腫由来培養細胞ではエタノール処理のみでもERC遺伝子発現量が増加し、男性中皮腫症例で同遺伝子発現量が多いという結果に関連していると考えられる。
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