研究概要 |
平成24年度は、(1) 癌細胞に反応する中皮細胞の発現mRNAの網羅的解析、 (2)その分子のin vitroの系における発現確認、(3) 癌性腹膜炎モデルの作成を行った。 (1) 発現mRNAの網羅的解析:Transwellを用いて、ラット中皮細胞(RMC)とヒト大腸癌細胞株HCT116を非接触性に共培養し、RMCのmRNA発現をGeneChip法にて解析した。20515 geneのうち、発現がX2以上の増強:257 gene, x0.5未満の減弱:92 geneであった。X2以上に増強したもののうち、サイトカイン関連は11 gene (7種類)で、X4以上の増強は、MCP3とInhibinAであった。 (2) in vitroの系における発現確認: MCP3とInhibinAについて、in vitroの実験系における発現の実際を検討した。中皮細胞のCa結合蛋白であるCalretininについても検討を行った。 Transwellを用いた癌細胞との非接触共培養で、MCP3とInhibinAのmRNA発現は経時的(day0,1,3,7)に増強した。Western blot法では、InhibinAやCalretininのわずかな増加を認めたが、MCP3は検出できなかった(MCP3は今後培養上清をELISA法で検出する予定)。癌細胞と中皮細胞の混合培養(接触共培養)では、癌細胞との接触によって、MCP-3, InhibinAのmRNA発現や、InhibinAやCalretinin の蛋白発現が増加した。 (3) 癌性腹膜炎モデルの作成: Balb/cヌードマウスにHCT116細胞を5x10e6個/個体を腹腔内接種した。2-3週で癌性腹膜炎の状態が確認され、4週以降は血性腹水が増加した。組織学的に癌は腹膜播種より腸管や腹壁に浸潤していたが、血行性転移は見られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、これまで得られた知見をもとに、癌性腹膜炎を中心課題として、癌に反応する中皮細胞の特性を明らかにし、診断や治療への応用に役立つ基礎的知見を得ることを目標とする。今年度の具体的研究目標を以下の3点に集約する。 (1) In vitroの共培養系の機能・形態学的解析:癌細胞とラット中皮細胞の共培養下における中皮細胞の形態と機能の変化を検討する。タイムラプス顕微鏡を用いて、中皮細胞層への癌細胞の接着、浸潤とその際の中皮細胞の形態変化を観察する。共焦点レーザー顕微鏡を用いて、細胞内骨格(アクチンなど)とカルレチニンやInhibinAなどのシグナル伝達因子の局在など明らかにする。電子顕微鏡では細胞内小器官の微細構造変化を検討する。 (2) フローサイトメトリー法による解析:In vitroの実験系で得られた中皮細胞の細胞表面マーカー(ポドプラニン、CD44など)や細胞内サイトカイン(MCP3やInhibinAなど)の発現をフローサイトメトリーで解析する。また、(3)のマウス癌性腹膜炎モデルで採取された腹水の中皮細胞にて同様の検討を行う。これらの検討で得られた知見から、癌性腹膜炎の腹水による診断や病態解明への応用を検討する。 (3) マウス癌性腹膜炎モデルの解析:Balb/cヌードマウスの腹腔内HCT116接種にて作成した癌性腹膜炎モデルにおいて、癌細胞と中皮細胞の反応様式を形態学的に解析する。癌性腹膜炎における癌細胞の接着、増殖、浸潤過程で中皮細胞がいかなる反応を示すかを、MCP-3, InhibinA, ポドプラニン、カルレチニン、CD44などの発現を中心に免疫組織学的に検討する。
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