研究課題/領域番号 |
23590436
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
本田 一穂 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (10256505)
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キーワード | 007 / 008 / 029 |
研究概要 |
平成25年度は、(1) マウス癌性腹膜炎モデルおよびヒト癌性腹膜炎組織の免疫組織学的解析、(2) マウス癌性腹膜炎モデル腹水、in vitro培養中皮およびヒト腹膜透析排液のフローサイトメトリー解析を行った。 (1) マウス癌性腹膜炎モデルの免疫染色では、中皮細胞にPodoplaninやCD44の発現が亢進していた。MCP-3やInhibinβAも陽性であったが、非癌部でも陽性であった。Podoplaninはヒアルロン酸受容体であるCD44と共働して細胞内骨格やシグナル伝達に作用しており、CD44の発現が中皮細胞の活性化マーカーとなり得る可能性がある。ヒト癌性腹膜炎組織でも、癌巣近傍で中皮細胞にPodoplaninやCD44の発現が亢進していた。一方、MCP3やinhibinβAの発現は症例により差があり一定の傾向は見られなかった。 (2) マウス癌性腹膜炎モデル腹水のフローサイトメトリーでは、ポドプラニンで中皮細胞を検出できたが、癌接種4週後の腹水では癌細胞が優位で中皮細胞は少数なためで、中皮細胞の形質変化についてはさらに実験条件の検討が必要である。in vitroラット培養中皮ではPodoplaninやCD44発現は低く、癌細胞との共培養刺激にて発現量に変化は見られなかった。ヒト腹膜透析排液では、Podoplanin陽性の中皮細胞分画を検出し、そのうち一部はCD44、CD62L、CD14およびCD56を発現していた。これらの発現は導入早期(9日目)では顕著であったが、長期腹膜透析(5年)検体では、発現細胞の出現頻度は低かった。以上、マウス腹水ならびにヒト腹膜透析排液検体では、ポドプラニンによる中皮細胞の検出が可能であること、中皮ではCD44、CD62L, CD14, CD56の発現がみられその発現量に変化が見られることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度は、癌細胞に対する反応性中皮細胞に発現する因子として、MCP-3とInhibinAの2つのサイトカインと中皮細胞に重要な表面分子であるPodoplaninとそれと共働的に機能するCD44、ならびに免疫担当細胞の活性化分子として重要なCD62L, CD14, CD56について、免疫組織学ならびにフローサイトメトリーの手法で中皮細胞での発現を検討した。しかし、動物モデルならびに臨床検体の数が少なく、十分な結論を導き得ていない。さらに、本研究の目的である「中皮細胞の多面的反応様式を利用した新たな診断・治療法の開発」を達成するためには、これらの分子の発現状況と病態との関連性詳しく検証していく必要がある。本研究の達成度がやや遅れている具体的理由を以下に列記する。 (1) ヒト癌性胸水・腹水検体の収集とその解析が行えていない。 (2) ヒト腹膜透析排液検体の収集とその解析が十分に行えていない (3) マウス癌性腹膜炎モデルを用いた解析が十分に行えていない。 上記の理由は、検体収集と検体処理に要する時間や労力を確保できなかったことに起因しているので、今年度は研究時間を十分に確保し、これまでに得られた知見や確立した手技を応用して、研究目的の達成を目指したい。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度(期間延長年度)は、これまで得られた知見をもとに、ヒト臨床検体(癌性胸腹水、腹膜透析排液)やマウス腹膜炎モデルの検体を対象として、中皮細胞の反応特性を明らかにし、その病態との関連性の解析、診断や治療への応用に役立つ知見を得ることを目標に研究をまとめたい。今年度の具体的研究目標を以下の3点に集約する。 (1) フローサイトメトリー法によるヒト癌性腹水の解析:中皮細胞の細胞表面マーカー(Podoplanin, CD44, CD14, CD56)や細胞内サイトカイン(MCP3, InhibinβA)の発現をフローサイトメトリーで解析する。検体は主に婦人科領域の悪性腫瘍(卵巣癌や子宮癌など)による癌性腹膜炎腹水あるいは手術時の腹腔洗浄液を用いる。腹腔内に癌細胞のない状態の腹腔洗浄液をコントロールとして、癌性腹水と比較する。得られた結果を癌の組織型や進行度、その他の病態因子との関係を解析し、病態診断や治療に役立つ知見を探求する。 (2) フローサイトメトリー法によるヒト腹膜透析排液の解析:腹膜透析患者の排液を用いて、同様の解析を行う。導入期、腹膜炎、腹膜硬化症など種々の臨床的背景の検体を検討し、中皮の形質変化と臨床病態との関係を解析し、病態診断や中皮再生治療のための応用法を模索する。 (3) マウス癌性腹膜炎モデルの解析:確立したマウス癌性腹膜炎モデルを用いて、経時的や癌播種の容量依存的な影響を検討し、中皮細胞の形質変化が関与する腹膜局所の病態病理学的機序の解明に応用する糸口を模索する。 以上より得られた知見を総合して、中皮細胞を用いた病態評価法を確立し、診断や治療に役立つ結論を導きたい。あるいは今後発展させるべき研究課題を見出したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に、in vivoの動物モデルにおける腹膜や腹水検体ならびにヒト臨床検体をもちいた中皮細胞の機能的変化を解析する予定であったが、フローサイトメトリー法による表面マーカー検出手技の確立が十分に行えず、これらの解析が十分に出来なかった。そのため、動物購入や飼育費用、細胞培養に関する試薬、フローサイトメトリー解析のための試薬や抗体などの予算に未使用額が生じた。 平成26年度は、フローサイトメトリーによる解析手技を十分に確立し、癌性腹膜炎の動物実験モデルやヒト癌性腹膜炎ならびに腹膜透析液などの臨床検体を用いて、これまでの解析でその意義が推測されている中皮細胞の機能変化の臨床応用的な意義の解析とその研究成果の発表を行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。 具体的には、フローサイトメトリー関連試薬(抗体や標識蛍光など)、マウス癌性腹膜炎モデルの実験動物(ヌードマウス)の購入や飼育費、免疫染色に使用する各種抗体や試薬、細胞培養実験のための器具(チャンバースライドなど)、培地、血清、増殖因子などの購入に使用する。また、得られた結果の学会発表や論文投稿に関わる費用にも使用する予定である。
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