H23およびH24年度,我々はマウスの脳血管内皮細胞株(bEND.3)またはマウス網膜を用いて,低酸素刺激に対する中枢神経系血管バリアー破綻の機構について解析を行った。低酸素条件に曝露するとマウス血管内皮細胞に発現するclaudin-5の減少を介して,中枢神経系血管バリアーの破綻をもたらし,また,この過程においてmetalloproteinase遺伝子ファミリーに属する蛋白質分解酵素活性を持つM1およびM2の2因子(特許出願中のため,M1とM2とする)が重要な役割を果たすという結果を得た。本年度,in vivoの実験モデルを用いて,引き続き,M1およびM2の役割について検討した。 実験系として,マウスの網膜を用いた。まず,マウスの硝子体にM1またはM2のsiRNAを投与し,マウスが麻酔から覚醒した後,正常酸素または酸素濃度7~4%の低酸素条件で,2日間飼育した。2日後,マウスの網膜を摘出し,抗claudin-5抗体を一次抗体として,免疫染色を行った。結果として,正常酸素下で飼育したマウスに比較し,低酸素条件で飼育したマウスの網膜血管内皮細胞でのclaudin-5の発現が減少し,この減少はM1またはM2のsiRNAの投与によって抑制された。さらに,M2欠損マウスを用いてM2の役割を検証した。WTタイプのマウスとM2欠損マウスをそれぞれ正常酸素と酸素濃度7~4%の低酸素条件で、2日間飼育した。2日後,網膜血管の透過性(血液網膜関門機能の指標)を評価するためにHoechstおよびdextranをトレーサとしてマウスに投与した。結果,M2欠損マウスにおいて低酸素刺激を受けても,網膜血管の漏れを認められなかった。 低酸素刺激による中枢神経系血管バリアー破綻の責任因子としてM1およびM2を特定し,これらの因子を標的にした難治性中枢神経系疾患の治療薬の開発が期待される。
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