研究課題
本研究はACAT1陽性後期エンドゾームの誘導により、遺伝性神経難病であるC型Niemann-Pick病(NPC)の治療を目指すものである。NPCは細胞内コレステロール転送蛋白の欠損のため、低比重リポ蛋白(LDL)由来の遊離コレステロールとスフィンゴミエリンが大量に後期エンドゾームに蓄積する疾患である。われわれの発見したACAT1陽性後期エンドゾームは高脂血症病態のマクロファージに出現する特異なオルガネラで、小胞体酵素であるACAT1と後期エンドゾームが機能的に融合することにより効率的な遊離コレステロールのエステル化をもたらす。ACAT1陽性後期エンドゾーム誘導によりNPC細胞内に蓄積した大量の遊離コレステロールをエステル化して遊離コレステロールの細胞毒性を軽減させてNPC病態の改善を検討した。これまでの研究によりNPCマウス骨髄細胞由来マクロファージをメチルβサイクロデキストリン-コレステロール複合体(CD-chol)ならびにアセチル化LDL(AcLDL)で処理すると、AcLDL処理では細胞内遊離コレステロールとエステル型コレステロールの両者が上昇するが、CD-chol処理では細胞内エステル型コレステロールが上昇する一方、遊離型コレステロールは逆に減少していた。共焦点レーザー顕微鏡を用いてACAT1と後期エンドゾームマーカーであるLAMP2の局在を検討したところ、無処理あるいはAcLDL処理後のNPCマウスマクロファージでは両者のシグナルは一致していなかったが、CD-chol処理マクロファージでは両者のシグナルの一致が有意に増加していた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題が採択された平成23年度に熊本大学から徳島大学に赴任となり、研究環境が大きく変わると同時に人的資源がほぼ枯渇した状態で研究を進めなくてはならなかったため、予定よりも研究は遅れている。しかしながら平成25年1月の新たな研究スタッフ赴任に伴って本研究に欠かすことのできない生化学的実験環境が整ってきた。また、前任の熊本大学での研究サポートも得ることができ、残された1年で当初の目標であるin vivoでのACAT1陽性後期エンドゾーム誘導によるNPC治療効果をin vivoで確認する実験に取りかかる目処を得ることができた。
最終年度である平成25年にはこれまでに得られたACAT1陽性後期エンドゾームの形成による効率的な細胞内遊離コレステロール低下が細胞機能と臓器機能に対してどのような影響を与えるかを検討する。NPCマウスマクロファージを用いた実験系においてCD-chol処理前後でマクロファージの炎症性サイトカイン産生能の変化や異物貪食能、異物処理能、外来抗原提示能などを検証する。また、in vivoの実験系においてNPCマウス新生仔にCD-cholを投与し、生命予後の改善効果を検討すると同時にNPCの標的臓器である脳と肝の変化を組織学的に観察する。また、これらの臓器傷害の要を握る組織在住マクロファージ(脳におけるミクログリア、肝におけるクッパー細胞)の機能を組織学的に検討するのみならず、これらの細胞の初代培養系を用いてin vivoにおけるマクロファージの細胞機能を検討し、臓器傷害と組織在住マクロファージの機能変化の観点からACAT1陽性後期エンドゾーム誘導とNPC病態改善の分子機構を解明する。
最終年度には細胞機能とin vivo実験の観点からこれまでのデータの裏付けを得るために、サイトカイン分泌能や異物貪食能、抗原提示能を生化学的、免疫学的アッセイを用いて評価する。このため、各種ELISAキットならびにマイクロプレートリーダーを購入してIFNγやLPSで刺激した後のNPCマウスマクロファージサイトカイン産生能を測定するまた、抗原刺激したNPCマクロファージのTリンパ球への抗原提示能も併せて検討する。また、in vivo実験のために、生後7日めのNPCマウス新生仔にCD-cholを投与して生命予後を検討すると同時に、NPCの標的臓器である脳と肝の変化を組織学的に解析する。この際、マクロファージの活性化状態を反映したCD204、CD169、CD163といった機能分子の発現を検討するための特異抗体を購入する。また、細胞傷害のマーカーとなるアポトーシスや活性酸素障害の程度をTUNEL染色キットや8-OHDG特異抗体を購入して検討する。
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