研究課題
本研究の目的は、1)HOXD8が大腸癌の肝転移に対して転移抑制遺伝子として働くこと、2)HOXD8を中心とした肝転移に対して抑制的に働く遺伝子発現ネットワークを明らかにすることである。本年度は以下の成果をあげた。ヒト大腸癌細胞株KM12SMをヌードマウスの盲腸壁、皮下、肝臓、脾臓および腹腔内に接種し、形成された腫瘍組織からRNAを抽出してHOXD8の発現を調べた。その結果、盲腸で増殖している腫瘍だけがHOXD8の高い発現を示し、肝臓、脾臓、腹腔内で増殖している腫瘍のHOXD8の発現は低かった。これは我々が以前報告したヒト臨床材料で検討した結果と同様であり、我々のヌードマウス移植モデルがヒトがんのHOXD8発現パターンを反映していることを示している。内皮下基底膜モデルであるマトリゲルに対して浸潤能に差のあるヒト大腸癌細胞の亜株を樹立した。高浸潤性細胞のHOXD8の発現が低浸潤性細胞のそれに比べ高いことがわかった。また、大腸癌細胞のマウス肝類洞内皮細胞層への接着性とHOXD8の発現の関連性を調べたところ、HOXD8の発現の低い癌細胞は、肝類洞内皮細胞層に接着しやすいが、接着後速やかにそのHOXD8の発現レベルは低下することがわかった。これらの事実から、HOXD8は大腸癌の肝転移成立過程において、その置かれた環境によって転移促進的あるいは抑制的に働くと推察された。また、ヒト大腸がん細胞にHOXD8を強制的に発現させることに成功したが、長期にわたり発現を維持させるには至っていない。今後発現ベクターに工夫をこらし、HOXD8の安定発現細胞株を樹立する予定である。
3: やや遅れている
本年度の研究から、HOXD8は肝転移成立過程の各局面において転移に対して促進的あるいは抑制的に働きうることが明らかとなった。この成果は新規性が高く評価できるが、これらは表現型の異なるヒト大腸がん細胞を比較して得られた成果である。昨年度からの課題となっている大腸がん細胞にHOXD8を強制的に発現させ、対照細胞との悪性形質を比較する実験については進展させることができなかった。なぜなら、大腸がん細胞にHOXD8を発現させうるプラスミドベクターの作製に試行錯誤が続いているからである。
ヒト大腸がん細胞にHOXD8を強制発現させるために、発現誘導型かつプロモーター活性の比較的低いベクターの構築をめざす。
該当なし。
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