研究課題
本研究は、種々の臓器の癌細胞において、肝細胞増殖因子Hepatocyte Growth Factor (HGF)をはじめとする細胞増殖因子の刺激により、細胞内のマイクロRNA(以下miRNA)発現がどのように変化し、ターゲットとなる下流の機能遺伝子の発現にどのような変化を来たし、さらに癌細胞全体の機能発現にどのような影響を与えているかを検討することを目的としている。昨年度までに、頭頚部扁平上皮癌培養細胞株において、HGF刺激前後で発現が変化する複数のmiRNAをマイクロアレイ解析で同定し、その中からHGF刺激により作動する重要な機能を担っている遺伝子を制御していると考えられるmiRNAとして、特に癌細胞の上皮間葉系移行に関与するZEB1をターゲットとするmiR-200cと、癌細胞の浸潤や増殖因子の活性化に関わるST-14/matriptaseをターゲットとするmiR-27bを同定し論文として報告した。今年度は前立腺癌でも同様な変化が起きていないか範囲を広げて研究を進め、HGF以外の増殖因子刺激としてアンドロゲン刺激の有無によっても同様のmiRNA発現の変化が起きて、ターゲットとなる下流の機能遺伝子の翻訳制御に関わっているかどうか検討を進めた。また過年度、頭頚部扁平上皮癌で発現しているmiRNA全般についてマイクロアレイを用いて解析し、扁平上皮で特異的に発現しているmiRNAを複数同定したが、昨年度は前立腺癌でも同様に発現が変化しているmiRNAを検索し、Gleson score別に癌細胞を分取することによって、より詳細な予後診断や治療マーカーになりうるmiRNAを複数同定し、生検時のGleson分類ではHigh riskかIntermediate riskか判定困難な症例で、miR-182が予後診断マーカーとして有用であることを臨床病理学的に証明し論文として報告した。
3: やや遅れている
昨年度までに頭頸部癌培養癌細胞株でHGF刺激前後で発現が変化するmiRNAを、マイクロアレイ解析によって明らかにし、その中からHGF刺激により作動する重要な機能を担っている遺伝子を制御していると考えられるmiRNAとして、特に癌細胞の上皮間葉系移行に関与するZEB1をターゲットとするmiR-200cと、癌細胞の浸潤や増殖因子の活性化に関わるST-14/matriptaseをターゲットとするmiR-27bを同定し論文にし、今年度はさらに前立腺癌でも同様な変化が起きていないか研究を進め、HGF以外の増殖因子刺激としてアンドロゲン刺激の有無によっても同様のmiRNA発現の変化が起きて、ターゲットとなる下流の機能遺伝子の翻訳制御に関わっているかどうか検討していたが、今年度途中で研究機関を転任することになり、ターゲッティングベクターを構築したところで研究がストップしている。転任先の山口大学で研究を再開すべく現在セットアップを急いでいる。
次年度は引き続き今年度のようなin vitroの研究および病理組織学的な検討(検証)を進めていくとともに、HGF以外の増殖因子刺激、特に頭頸部癌においてはEGF、前立腺癌においてはアンドロゲン刺激前後に変動するmiRNAの発現変化についてmiRNAマイクロアレイを用いて比較検討を行う。特に遅れている前立腺癌の研究については、変動したmiRNAのターゲット遺伝子を検索し、そのmRNA発現や蛋白発現に変化がないか調べ、逆にmiRNAを強制発現させたり、ノックダウンさせて、確かにその遺伝子がターゲットであるかどうか検証するとともに、実際に病理組織標本を用いて検証作業を行う。
平成25年1月1日付けで山口大学へ転任することになり、研究を一時中断する必要が生じた。そのためmiRNAに関する培養細胞を用いた研究が遅れ、試薬、培養器具等の消耗品費について、当該助成金未使用額(678,475円)が生じた。未使用額は転任先の研究室に設置されていなかったクリーンベンチを設備備品として購入する他、消耗品費として以下のような物品に使用予定である。1)試薬類2)プラスティック器具類3)抗体、カラム類4)培養液、培養器具類また国内外の学会参加費としても一部使用予定である。
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