研究課題/領域番号 |
23590457
|
研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
旦部 幸博 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (50283560)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 癌抑制遺伝子 / エネルギー代謝 / drs / ワールブルグ効果 |
研究概要 |
本申請研究は、癌抑制遺伝子Drsが制御する代謝シフトの機構解明と、癌の悪性化との関連について明らかにすることを目的とする。平成23年度において申請者は、drsノックアウト(KO)マウス由来胎児線維芽細胞(MEF)を用いて、(a) Drs遺伝子の発現消失と代謝シフトとの関連についての解析、(b)Drs発現消失による代謝シフト誘導のメカニズム解析を行い、以下の成果を得た。(a-1) 野生型(WT)およびKO MEFを通常条件で培養したとき、両者の増殖に差は認められなかったが、KO MEFではWTに比べて、培地pHの低下、培地中グルコース消費量と乳酸産生量の増加が認められた。さらにWTおよびKO MEFのメタボローム解析を行った結果、KO MEFにおいては、解糖系ならびにペントース回路の代謝産物量が増加することを見出した。一方クエン酸回路代謝産物の有意な増加は認められなかった。このことから、KO MEFではワールブルグ効果と類似のグルコース代謝シフトが生じていることを明らかにした。(a-2) KO MEFにdrs遺伝子を再導入することでこの現象が抑制されることを明らかにし、drsがグルコース代謝シフトを調節することを証明した。(b-1) 解糖系関連タンパク質の機能変化によって代謝シフトが生じている可能性を考え、ウェスタンブロッティング法で解析した。その結果KO MEFでは解糖系で作られるピルビン酸を乳酸に代謝するLDH-A, Bの発現が亢進していることを見出した。グルコース取込みに関わるGLUTやp53誘導性解糖系調節分子TIGARの発現には差が見られなかった。(b-2) 近年、LDH-Bの発現制御にmTOR経路が関与するという報告があるため、mTOR経路の活性化をウェスタンブロッティングによって解析し、KO MEFにおいてmTOR経路の活性が亢進していることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、当初、科研費支給額の減額が検討されていた影響で、予算の関係上、メタボローム解析委託を次年度以降に繰り越すことを考慮に入れて実験を行う必要があった。予定額が支給されたことで、年度内に解析委託を実施することができたが、このため後半の解析(23年度研究実施計画b-2)については今後も継続を要する。一方、メタボローム解析の結果から、解糖系の亢進と並行して酸化ストレス応答経路や、核酸合成経路にも変化が生じていたことから、これらの経路にもdrsが関与している可能性を新たに見出し、drsによる代謝シフト調節の生理的、病理的意義の解明(23年度実施計画では24,25年度に実施予定)にも着手しはじめている。以上を総合的に判断して、本研究は、おおむね順調に進展していると自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、今後も基本的に、研究実施計画に基づいて研究を推進する。平成24年度には特に下記の点についての解析を行う:(a-3,4) MEF以外の細胞においてdrsがエネルギー代謝シフトの調節に関与するかどうかを解析する。(b-3) drsによる代謝シフトと生理的ストレスの関連を検討する。(c-1) drsと相互作用する分子を解明し、両者の機能を明らかにする。また平成23年度の結果から、研究実施計画の(b-1,2)drsによる代謝シフト調節の分子メカニズムについて、より詳しい解析を行う必要が示唆されたため、引き続き解析を継続するとともに、メタボローム解析の結果から明らかになった、解糖系以外の経路の変化と、エネルギー代謝シフトの関係についても、あわせて検討を行うこととする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題は、次年度の研究費として、(1)研究実施計画に記載した24年度研究費と、(2)23年度から繰り越した次年度使用額、を用いることを計画している。このうち、(1)24年度研究費については、当初の研究実施計画に基づいて使用する予定である。(2)次年度使用額は、平成23年度に科研費支給額の決定が遅れたことに伴って、抗体や遺伝子解析用プライマーなどの解析用試薬の購入を延期する必要が生じたため繰り越したものである。繰り越した分については、24年度に当該の試薬の購入に充てる予定である。
|