研究課題
本研究は、破骨細胞分化効率を恒久的に減少させうる可能性を見出し、その手法を骨粗鬆症治療へと応用することで、骨粗鬆症の発症を減少・阻止することを目的としている。申請者が腹腔内へ蒸留水を注入することで低張処理をおこない、その結果、見出した破骨細胞分化誘導制御機構を明らかにするために、3年間で、1)破骨細胞分化制御に関わる腹腔内に存在する細胞群と骨髄中に存在するCD5陽性の細胞群の性質を明らかにし、2)その細胞群の特異的除去の方法と骨粗鬆症の抑制効果をマウス個体レベルで確認する事を目的としている。 平成23年度は、(1)1回の腹腔低張処理による骨髄細胞の破骨細胞分化誘導の減少が維持される期間と、(2)骨髄中に存在する破骨細胞分化制御細胞を明らかにすることを目標とした。その結果、(1)腹腔低張処理を1度行うと、その後、少なくとも1年以上(69週)、対象等張緩衝液処理との間に、有意な破骨細胞誘導の減少が観察された。この有意差は雌雄両性に同じように観察された。マウスにおけるこの1年という期間は、ヒトに換算するとかなりの長期的な期間を意味すると推測される。(2)骨髄細胞から、抗体で各細胞系譜を除去するとCD4、CD5、CD8a、Thy1.2のT 細胞系譜マーカー分子を発現しており、一方、B細胞、単球・顆粒球、NK細胞、赤血球などの細胞系譜マーカーは発現していなかった。また、Kit(幹細胞を含む未熟な細胞)、IL-7受容体等も陰性の細胞群のようである。更なる検討で、この細胞群を明らかにできると確信している。本年度に行った論文発表は、破骨細胞分化誘導の実験系を明確にした(Methods Mol. Biol.)。B細胞を中心とした骨髄内分化機構の検討を行った(Biochem. Biophys. Res. Commun.)。また最近、樹状細胞の遊走の論文(Eur. J. Immunol.)も発表した。
2: おおむね順調に進展している
概要に述べたように、申請時に予定した検討項目を順調に進めることが出来ている。特に、骨髄内における破骨細胞分化制御細胞についての検討は、T細胞系譜が欠損するマウス、変異マウスにとどまらず、T細胞抗原受容体トランスジェニックマウスでも分化制御機能が低下するので、T細胞系譜の分化段階、サブセットも含めた解析が出来ている。現在、CD4陽性細胞とCD8陽性の細胞にその活性を見出しており、異常を示す変異マウスや単離、精製することで、その標的細胞が概ね、絞り切れた感がある。よって、予定通りに、その標的細胞を単離出来ると考えている。 本年度の達成度を敢えて「概ね順調」とした意味は、腹腔低張処理における破骨細胞分化の減少が、どうやって、骨髄内に存在するT細胞系譜に伝達されるのかという点がまだ明確になっていないということが理由である。その点を、次年度(平成24年度)には、明らかにする。
申請書に記した実験予定に準じて、破骨細胞分化制御する細胞だけでなく、(3)破骨細胞前駆細胞の分類にも取り組む。実際に骨粗鬆症の標的とすべき破骨細胞前駆細胞を明らかにし、生理学的な骨吸収に加齢と共にエストロジェン低下にともない、増加する分化促進の機構の解明にも重要である。 そのため、(4)卵巣摘出術処置(OVX)モデルを用いた治療の効果判定を行う。OVXによるマウスの骨粗鬆症モデルシステムを用いて、腹腔低張処理の効果、破骨細胞分化誘導制御細胞の候補細胞の変化を検討する。ヒトへの応用を視野に入れるとOVX前に処理した場合、OVX後に処理した場合で、前者は予防法として、後者は発症後の効果を検討することとなる。このモデルで骨粗鬆症の改善が見られれば、生体内での生理的な反応を確認したことにもなる。次年度は、このような生体モデルによって、腹腔内、骨髄内に存在する破骨細胞分化制御機構にアプローチする。 さらに、(5)骨破壊性疾患(関節リウマチなど)への応用: 破骨細胞分化を制御する機構が腹腔内に存在するので、この機構を骨破壊性の疾患(関節リウマチなど)の治療に応用するための検討を行う。破骨細胞分化の効率が低下しているBtk異常マウスでは実験的関節炎のモデル実験において、骨吸収による骨破壊がほとんど見られない。正常マウスにコラーゲンによる実験的関節炎を誘導する前後に、腹腔の低張処理を行い関節炎の発症、病状の寛解について検討する。
細胞培養の為の培地、器具、各種因子などは引き続き使用することとなる。次年度(平成24年度)は、卵巣摘出マウスなど、本年度より、より生体での活性を検討することが中心になる。そのため、より多数のマウスを用いることとなる。標的細胞を濃縮、精製するために、各種抗体、細胞分取に対する費用などがさらに必要になると考えている。た、実験群のマウスの骨量の変化の測定は外注によるしかないため、この為の支出も予定している。 よって、支出の内容は、概ね本年度と同じであるが、上記の実験に必要な費用が新しい内容となる。
すべて 2012 2011 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
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http://www.med.tottori-u.ac.jp/immunol/5983.html