研究課題
本研究は、破骨細胞分化効率を恒久的に減少させうる可能性を見出し、その手法を骨粗鬆症治療へと応用することで、骨粗鬆症の発症を減少・阻止することを目的としている。申請者が腹腔内へ蒸留水を注入することで低張処理をおこない、その結果、見出した破骨細胞分化誘導制御機構を明らかにするために、3年間で、1)破骨細胞分化制御に関わる腹腔内に存在する細胞群と骨髄中に存在するT細胞系譜の性格を明らかにし、2)その細胞群の特異的除去の方法と骨粗鬆症の抑制効果をマウス個体レベルでも確認する事を目的としている。平成24年度は、①この破骨細胞分化制御に関与する細胞群探索のため、各種トランスジェニック(Tg)マウス・遺伝子破壊(KO)マウスを用いて、腹腔低張処理の効果を検討した。その結果、T細胞抗原受容体のTgマウスでは、低張処理による破骨細胞分化誘導の効果は見られなかったが、B細胞抗原受容体のTgマウスでは正常対照群同様の反応が見られた。実際、正常マウス骨髄からCD4あるいはCD8陽性T細胞画分を除去すると分化誘導の減少が観察され、T細胞系譜の関与が示唆された。②腹腔の低張処理により影響を受ける骨髄細胞を明らかにするため、正常対照群、低張処理マウス、T細胞抗原受容体Tgマウス等からのT細胞画分を低張処理マウスの破骨細胞分化系に加えてその反応の回復を検討したが、まだ、回復能を持った細胞の同定までは至っていない。本年度に行った論文発表は、破骨細胞分化の決定システムの検討を行なった Biochem. Biophys. Res. Commun.)、骨細胞を含む様々な細胞の起源を比較検討した (PLos One)、樹状細胞の遊走機構の解析 (Eur. J. Immunol.)、などがある。
2: おおむね順調に進展している
概要に述べたように、申請時に予定した検討項目をおおむね順調に進めることが出来ている。低張処理後の骨髄破骨細胞分化誘導の減少の維持される期間の検討は既に70週にも及んでおり、マウスの寿命のおおよそ半分は、この1回の処理で減少化が維持されることを確認した。よって、腹腔内に代替不可能な細胞集団が存在する可能性が確実になった。低張処理マウスの低下した破骨細胞分化には、骨髄内T細胞系譜の関与が示唆されていたが、そのより詳細な検討を行ってきた。その結果、CD4陽性細胞のみならず、CD8陽性細胞ですらこの減少化に関与していることが明らかとなった。CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の両者が関与しているのか、あるいは未同定のCD4/CD8両陽性の細胞集団の存在があるのか、どちらの結果でも興味深いが、明確にしなければならない。そのため、試験管内でT細胞系譜の添加で回復させる実験を行い細胞の分離同定を決定する実験を計画している。この点は特に解決を目指して集中する必要を感じている。T細胞の欠損マウスに破骨細胞分化制御細胞を戻す実験の宿主とするRag1遺伝子破壊マウスもようやく十分な数準備できたので、生体での機能回復実験を行い、標的細胞を決定する。
次年度(平成25年度)は本申請の研究の最終年度となっているので、申請書に記した実験予定に準じて、破骨細胞分化制御する細胞を腹腔と骨髄から分離同定し、機能的にも確認するという最終段階の実験を行う。特に、腹腔の標的細胞系譜の決定は重要で、この細胞系譜が明確になれば、特異的にこの細胞系譜の除去を行い、低張処理によって観察された骨髄破骨細胞分化の減少と同様の結果が起こることを確認する。もし、この標的細胞除去が成功すれば、ヒトの更年期後の高率に発症する骨粗鬆症の根本的な治療となることも夢ではなくなる。マウスの処理後の状態もいたって元気であり、充分可能性があると期待している。
細胞培養のための培地、器具、各種因子などは引き続き使用して実験を遂行することになる。マウス生体での効果を検討するため維持しているマウスだけでなく、一定数のマウスの購入も必要になる。次年度(平成25年度)は、申請の際に予定した実験系の成就に向けて集中して研究を遂行する。
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
Biochem. Biophys. Res. Commun.
巻: 428 ページ: 303-308
10.1016/j.bbrc.2012.10.052
Eur. J. Immunol.
巻: 42 ページ: 1459-1467
10.1002/eji.201142114
PLoS One
巻: 7 ページ: e46436
doi:10.1371/journal.pone.0046436
http://www.med.tottori-u.ac.jp/immunol/5983.html