研究課題
本研究の目的は,全世界のヒト発癌要因の20~30%を占めると推計されている炎症発癌に対する予防あるいは治療のための新規化合物を見出すことにある.これまでの申請者らの行ってきた研究成果により,炎症発癌は炎症細胞の局所浸出に始まることを明らかにした.従って,この浸出過程を実効遮断する新規低分子化合物を見出すことで,炎症発癌を制御し得ることが可能となることから,当該化合物の決定を進めてきた.400種超に及ぶ既成の各種シグナル等に対する低分子阻害化合物の中から,炎症細胞の浸出阻害を定量評価することのできるin vitroスクリーニング系を開発し,既存の非ステロイド性抗炎症剤等とは異なる新規低分子化合物の選択を終えた.in vitroにおける評価系で選択された抑制活性の高い化合物は,in vivoにおける炎症モデルにおいても炎症細胞浸出を抑制した.たとえば,ゼラチンスポンジの皮下移入による炎症細胞浸出アッセイ系や空気嚢炎症法(Air-pouch models of inflammation)などにおいても,炎症細胞の局所浸出を著しく抑制した.さらに,候補化合物の一部は,我々の確立したマウス炎症発癌モデルの癌化を抑制することを見出した.この際に,炎症局所における炎症細胞の浸出程度が,溶媒対照投与群に比べて有意に減少することも検証した.一方で,in vitro投与された候補化合物は,溶媒対照投与群に比べてマウスの末梢血リンパ球数を変動させないことから,骨髄抑制等を介した炎症細胞浸出抑制とは異なる,新たな制御機構を担う可能性が示された.本研究は,これまでに提唱されていない新たな炎症発癌の遮断法の提示を狙う.
2: おおむね順調に進展している
平成23年度の研究実施計画に則り,計画実験を遂行し概ね終了することができた.また,研究期間内には成果の再現性を確認することもできた.加えて,本申請課題の国際雑誌等への投稿の際に必須となる機序解析のひとつとして,当初の実施計画には含まれていない必要事項(骨髄抑制能等)を新規に追加し,相当の成果を得ることができた.本研究課題を総合的に評価する際に極めて重要な研究成果を加えることができた.
平成23年度の研究実施計画が概ね計画通り進捗したことより,平成24年度には当初の研究実施計画に則り,選択した炎症細胞の浸出阻害化合物の分子機構の解析に移行する.
使用予定であった試薬類の一部は,これを除いても当該研究の遂行に支障を生じないことが分かったため,購入を見合わせた.その購入に計上していた25,913円は,次年度へ繰り越し当該研究に使用する.次年度研究費の使用計画は,当初の実施計画に従い行う予定である.
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)
Nitric Oxide
巻: 25 ページ: 183-194
10.1016/j.niox.2011.02.003
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