研究課題
我々は悪性中皮腫の発癌に本質的に関わる原因遺伝子(ドライバー遺伝子)としての融合遺伝子を同定する目的で、悪性中皮腫細胞株Meso-4について次世代シークエンス技術で網羅的に融合遺伝子を探索するwhole transcriptome shotgun sequencing(RNA-Seq)法を導入した。この方法により同定した多数の融合遺伝子候補について、さらにRT-PCR解析を進めた。前年度にはMET遺伝子やPI3Kファミリーに属するPIK3C3遺伝子が関与する融合転写産物が確認されていたが、平成25年度は新たにDUS4L-BCAP29、PDPN-PRDM2の2つが確認され、有力なドライバー遺伝子候補であることが示唆された。この2つの融合転写産物については、Meso-4以外の悪性中皮腫細胞株5株(Meso-1、NCI-H28、NCI-H2052、NCI-H2452、HMMME)においてもRT-PCR解析を同時に行った結果、DUS4L-BCAP29については5株すべてで発現を認めた。DUS4L-BCAP29は、全く同じ融合遺伝子が胃癌の細胞株や臨床検体でも検出されており、soft agar assay等で形質転換能も確認されていることが報告された(Kim HP et al: Oncogene 2013)。PDPN-PRDM2については、PDPN遺伝子の産物であるポドプラニンが悪性中皮腫において細胞株でも臨床検体でも高発現していることが報告されている(Abe S, et al. J immunol 2013)。また、同じ論文で、抗ポドプラニン抗体がin vitroで悪性中皮腫細胞の増殖抑制効果を有することも明らかになっている。本研究により、悪性中皮腫の有力なドライバー遺伝子候補としてだけではなく、癌治療の分子標的になりうる遺伝子も同定されたと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の目的である悪性中皮腫の発癌機構の解明につながるだけではなく、治療の分子標的候補にもなりうる融合遺伝子を同定したため。
融合遺伝子候補PDPN-PRDM2の全長cDNAを発現ベクターに組み込み、マウスNIH/3T3細胞に導入する。導入融合遺伝子の発現を確認した後、軟寒天培地培養でフォーカス形成を観察し形質転換能を確認する。また、この形質転換細胞において、PDPN遺伝子の産物であるポドプラニンの発現が上昇しているかどうかを検証する。ポドプラニンの高発現が確認されれば、その形質転換細胞に抗ポドプラニン抗体を添加し、濃度系列、時間系列での細胞の増殖抑制効果を検証する。
本研究課題の目的である悪性中皮腫の新規原因遺伝子の同定において、網羅的に候補を同定できる実験方法を採用したため、結果的に試薬代が節約でき、未使用額が発生した。悪性中皮腫細胞株Meso-4より新たに同定した発癌の原因候補となる融合遺伝子転写産物について、さらに解析を進めるために、主に試薬購入代金に充てる。また、この融合遺伝子転写産物が、Meso-4以外の他の悪性中皮腫においても認められないか、さらに解析を進める。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Cytogenet Genome Res
巻: 142 ページ: 167-173
10.1159/000357930
Oncogene
巻: in press ページ: in press
10.1038/onc.2013.491.