近年、様々な固形腫瘍において、原因となるだけではなく、治療の分子標的にもなりうる融合遺伝子・転写産物が続々と明らかになってきている。しかしながら、悪性中皮腫については世界的に患者数が増加しているにもかかわらず、原因となるような遺伝子異常はまだほとんど同定されておらず、有効な分子標的治療法も確立されていない。 我々は、悪性中皮腫の発生に関与する融合転写産物候補を同定すべく、細胞株(ACC-MESO-4)を対象に次世代シークエンサー(HiSeq 2000)によるRNA-Seq解析を行った。得られたpaired-end read配列情報を融合転写産物検出アルゴリズム(deFuse version 0.5.0)で解析し、網羅的に同定した。さらに、これらの中から、予想される融合遺伝子機能の点や他の複数の悪性中皮腫細胞株5株(ACC-MESO-1、NCI-H28、NCI-H2052、NCI-H2452、HMMME)における発現の有無の解析(RT-PCR)等により検証して、候補を絞り込んでいった。 その結果、DUS4L-BCAP29、PDPN-PRDM2が有力な融合転写産物候補として絞られた。これらは、正常組織由来のtotal RNAでは検出されないことも確認した。 DUS4L-BCAP29融合転写産物は複数の胃癌臨床検体においても検出されており、実験的に形質転換能を有することが報告されている。PDPNはACC-MESO-4も含めた複数の悪性中皮腫細胞株において過剰発現が報告されており、他の遺伝子との融合により転写が活性化されている可能性も考えられる。 今回同定した2種類の融合転写産物は悪性中皮腫の発生に本質的に関与している可能性が示唆された。
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