研究課題/領域番号 |
23590465
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
丸本 朋稔 九州大学, 生体防御医学研究所, 講師 (60363511)
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研究分担者 |
谷 憲三朗 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (00183864)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 実験病理学 / 腫瘍 / 脳腫瘍 |
研究概要 |
神経膠腫(グリオーマ)は成人にみられる中枢神経系腫瘍の約1/4を占め、髄膜腫と並んで最も頻度の高い腫瘍である。神経膠腫の中でも最も悪性度が高い膠芽腫(GBM)は周囲正常組織への高い浸潤性を示すことより、手術療法による根治が難しいことに加えて、化学療法や放射線療法に対しても強い抵抗性を示す極めて治療が困難な腫瘍であり、GBMに対する有効な治療法の開発が強く望まれている。 GBMはしばしば上皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子-α(TGF α)、あるいはインスリン様成長因子(IGF)といった様々な増殖因子を分泌すると共に、それぞれの因子に対する受容体であるEGFR、PDGFR、TGFαRあるいはIGFRなどを高発現し、自己分泌(autocrine)ループや傍分泌(paracrine)ループを形成している。また、GBMの約1/3でリガンドの結合を必要としない活性変異型EGFR variant III(EGFRvIII)を発現していることがわかっている。これらの増殖因子の下流では、Ras/MAP キナーゼ経路、PI3キナーゼ/AKT経路、PLC-γ/PKC 経路やc-MYC経路が活性化されており、それぞれが腫瘍細胞の増殖、分化、浸潤などに関与しているとされている 。 このように、GBMの発生や進展に関与する分子シグナルは部分的に明らかにされているもののGBMの発生メカニズムを理解する上で極めて重要なその細胞起源と発癌シグナルの関連に関してはあまりよくわかっていない。 本研究では申請者が開発した成体マウスを用いた細胞種特異的発癌モデルを基盤とし、どの細胞種でどの発癌シグナルが活性化されたときにGBMが形成されるかについて明らかにすることを目的としている。本年度は研究の基盤となるGBMマウスモデル実験系の構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、どのGBM誘導発癌シグナルがどの細胞種を起源として活性化した場合にGBMが形成されるのかを明らかにすることである。この目的を達成するため、まず申請者が開発したCre制御レンチウイルスベクターをGFAP-Creマウスの大脳にインジェクションすることによりGFAP陽性細胞特異的に任意の遺伝子の発現誘導が可能なシステムを利用し、細胞種特異的に種々の発癌イベントを誘発することを計画した。これまで、申請者はCreリコンビナーゼ存在下に癌遺伝子である活性化型H-Rasを発現することのできる Cre 制御レンチウイルスベクター(pTomo H-RasV12 LV)を構築し、このベクターをGFAP-Cre/p53+/-マウスの傍側脳室あるいは海馬領域特異的に導入することにより、癌遺伝子H-Rasの活性化による星細胞特異的な発癌を誘導し、GBMと極めて類似した脳腫瘍を形成することのできる新規脳腫瘍マウスモデル系を開発した。しかしながら、この方法では、p53へテロ接合型のGFAP-Creマウスを交配により、準備しなくてはならないという欠点がある。そこで、より簡便にGBMモデルを作出できるシステムを構築するため、まずH-Rasを活性化すると同時にshRNA(short hairpin RNA)を用いてp53を抑制することのできるレンチウイルスベクターの構築を行い、このベクターはin vitroにおいて、Creリコンビナーゼを同時発現したときにのみ、癌遺伝子であるH-RasV12を発現し、腫瘍抑制遺伝子であるp53の発現を抑制することがわかった。現在、このベクターを、GFAP-Creマウスの傍側脳室、海馬、皮質下に導入し、異なる領域のGFAP陽性細胞特異的に活性化型H-Rasを発現すると同時に、p53の発現を抑制し、in vivoにおいて腫瘍を形成するか、経過観察中である。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように成体マウス大脳の種々の領域で、GFAP陽性細胞特異的にH-Rasの活性化とp53の抑制を行った際に腫瘍が形成されれば、そのマウスから腫瘍を摘出し、腫瘍組織を固定後、H-E染色と免疫組織染色により詳細な病理学的解析を行う予定である。この際、発癌が誘導された領域によって腫瘍形成の割合が異なるのかも合わせて検討する。また、発癌が誘導されたGBM起源細胞はGFP陽性となるため、腫瘍の増大に伴いそのGFP陽性細胞がどのように進展し、正常脳へどのように浸潤するのかについても検討する。さらには、腫瘍細胞をin vitroで培養し、NOD SCIDマウス大脳へ少数(10-100)インジェクションすることにより腫瘍細胞が癌幹細胞としての性質を持つのかを調べると同時に癌幹細胞のマーカーであるCD133を発現するのかを検討する予定である。 このように、まずin vivoで細胞種特異的かつ領域特異的に発癌イベントを誘発し、GBMを誘導する実験系を構築することができたなら、次は癌遺伝子の種類を変えることにより、同じ領域の同じ細胞種で異なる発癌イベントを誘発したときに異なる病理学的特徴をもつ腫瘍が形成されるのか、検討する。 さらに、上記を明らかにできたなら、次は同じ発癌イベントを異なる領域、異なる細胞種で誘発した際に腫瘍は形成されるのか、形成された腫瘍の病理学的特徴は異なるのかを検討するため、Nestin-Creマウスなど、Creリコンビナーゼを異なる細胞種で発現するトランスジェニックマウスを用いて同様の腫瘍形成実験を行う予定である。適時、国内及び海外の学会において発表を行い、脳腫瘍発生機構に関する最新の知見に関して様々な研究者と情報を交換し、常にこの分野における最前線の研究を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度においては、ひきつづき本研究必要とされるレンチウイルスベクターの構築、作製に必要な組み換えDNA作製試薬、遺伝子導入試薬、細胞培養液および血清、ウイルス濃縮用試薬、器具の購入に使用される予定である。レンチウイルスベクターのマウス大脳内インジェクションに必要なマウス実験器具、マウス購入および飼育費、餌、麻酔薬、手術に必要とされるメスやピンセットなどの消耗品、飼育に必要な器具の購入に使用される予定である。さらに、マウス大脳で脳腫瘍が形成されるとマウスの頭部は拡張し、歩行障害を呈する。この症候を示したマウスは安楽死させパラフォルムアルデヒドで還流固定をし、大脳を取り出す。取り出した大脳はパラフィン固定し、H-E染色ならびに免疫組織学的染色を行う。次年度の研究費はこれらの実験に必要な器具ならびに試薬の購入にも使用される予定である。また、脳腫瘍の一部はN2 supplement や種々のサイトカインを用いた血清非含有神経幹細胞用培養液で培養する予定であり、この培養に必要な培養液、サイトカインなどの購入が必要と考えられる。 本研究計画が成功した場合には英文専門誌への発表に加え、国内及び海外における関連学会で発表を行うとともに、必要に応じて九州大学企画広報室を介して各報道機関への公表も行う予定であるが、これらは研究分担者である谷 憲三朗、研究代表者である丸本朋稔、同実験に携わる大学院生である山口沙織ならびに廖紀元が行う。次年度の研究費はこれに伴う研究打ち合わせならびに成果発表のための旅費、成果発表のための論文の英文校正費用、投稿ならびに別刷代の費用、謝金に使用される予定である。
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