研究課題/領域番号 |
23590466
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
橋本 修一 熊本大学, 大学院生命科学研究部機能病理学分野, 准教授 (00243931)
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キーワード | beta-catenin / p63 / Sox2 / Sox9 / Notch / Stem cell / Airway epithelium / Differentiation |
研究概要 |
[目的] 我々はβ-catenin/Sox2系が発達肺気道上皮の分化に重要であることを報告した。本研究ではβ-cateninとp63/Sox2/Sox9/Notchの気道上皮分化における制御機構を明らかにすることを目的とする。 [方法] p63発現ヒト株化気管支基底細胞(VA10)の3次元培養法を確立し、Wnt/β-catenin系、胎児肺発達関連因子およびsiRNAによるp63遺伝子発現阻害とVA10分化との関連につき病理組織学的、免疫組織化学的解析を中心に行った。マトリゲル中でVA10を各刺激因子の存在/非存在下で3次元培養、観察し、14日目で停止後、ゲルの凍結切片を作成し、H.E.染色、免疫染色を行った。 [結果] VA10は非刺激下でsphere colonyを形成し、扁平な構成細胞と辺縁平滑なコロニー形態を呈した。BIO(GSK-3阻害剤)、Wnt3a刺激によるWnt/β-catenin系活性下で、構成細胞の立方化とコロニー外方へのbuddingも観察された。p63発現は外側配列細胞に見られ、ヒトの気管支の基底部がコロニー外側に、内腔側がコロニー内部に向かうような極性を持ちながらinvolculin陽性の角化傾向を伴った内側の上皮へ分化する形態を認めた。FGF-10はヘパリン存在下でVA10膨大化とコロニー外方への無秩序なbuddingを誘導した。siRNA-p63遺伝子発現阻害では淡明細胞質を有する細胞の膨大化も見られた。 [展開] 平成25年度は、VA10誘導細胞の分化解析、及び、ChIPアッセイ法によるβ-catenin/Sox2/p63の直接的結合性の解析を行い、β-cateninの気道上皮分化制御機構の解明を目指す。また、肺癌細胞、組織での各因子の発現解析から、肺癌の発生、分化、維持機構への関連についても考察を行う。最後に、最終的な実験結果の総括を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、細胞レベル、特にVA10 (p63発現ヒト株化気管支基底細胞)の2次元培養においてβ-catenin誘導発現状態における、Sox2, Sox9, p63, Notch遺伝子発現との関連をRT-qPCRにて解析を行い、β-cateninと各因子間の発現制御機構につき考察を行える段階まで来ている。また、VA10の3次元培養法を確立することに成功し、実際にこれら各因子のVA10の分化に与える影響をこの系を使って検索できるシステムを確立できた。H24年度に購入した遺伝子導入装置もp63遺伝子発現阻害のためのp63-siRNA導入のために有効に活用ができており、p63の肺上皮分化における機能解析も期待できる状態にあると考えられる。今後、癌細胞や組織でのこれら因子の発現の意義解析は残るものの、H25年度にこれらの解析は行う予定にしており、以上のような理由から、判定は、(2)おおむね順調に進展している、と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
上記のごとく、現在VA10の3次元培養法を確立し、この系を使って各因子がその分化状態にどのような影響を与えるかを解析できる状態までもってくることが出来た。また、非刺激状態(コントロール)では、VA10がsphere colonyを形成し、外側から内側に向かう極性を呈し、内側に向かって角化傾向を持つ細胞に分化していくことを発見した。また、FGF-10刺激、p63-siRNA導入によるp63遺伝子発現阻害により、sphere colonyからのVA10細胞のbuddingや細胞形態の変化を誘導できることを確認するまでは至っているが、詳細な各肺上皮細胞への分化傾向や、β-catenin, Sox2/9, Notch発現との関連解析までには至っていない。次年度は各因子刺激およびp63遺伝子発現抑制によるVA10誘導細胞の分化解析を免疫組織化学、およびRT-qPCRによる遺伝子発現解析から行い、また、ChIPアッセイ法によりβ-cateninと特にSox2/p63との直接的結合性の検討と結合領域の解析を行うことでβ-cateninの気道上皮分化制御機構の解明を目指す。さらに、これらの癌細胞や組織での発現解析を行い、発癌や癌細胞増殖、維持機構との関連についても検索を行っていく。最後に、最終的な実験結果の総括とまとめを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度は遺伝子導入機器Neonシステムの購入を行うためH23の繰り越し金を使用したが、最終的な研究費はほぼH24年度までの予算の範囲内に抑えることで実験計画を遂行することが出来た。よって、H25年度の予算はそのまま全額使用することが出来る状態にあるため、H25年度の研究を遂行するに必要な備品の購入や結果発表のための経費等は予定通り残りの予算内で可能であると推定される。
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