研究課題
食道扁平上皮癌はわが国において頻度が高く、かつ難治性の癌である。その治療成績を向上させるためには、食道扁平上皮癌の発生・進展に関与する特異的な分子病態を明らかにし、治療標的分子を同定することが重要である。 DNA コピー数異常は発癌メカニズムのひとつである。食道扁平上皮癌に生じたDNA コピー数異常を高密度オリゴヌクレオチドアレイで網羅的に解析した結果、Partition-defective 3 (PAR-3)遺伝子のホモ欠失と発現消失を初めて発見した。ホモ欠失は癌抑制遺伝子のマーカーのひとつである。PAR-3は細胞間タイトジャンクションと細胞極性の形成に必須の分子である。細胞極性と細胞間接着の消失は進行癌に共通して観察される現象であり、周囲への浸潤や転移に密接に関連する。PAR-3 欠失が食道扁平上皮癌におけるタイトジャンクションの形成異常および浸潤・転移・増殖に関わる機能的役割、さらにその臨床病理学的意義を解明することが本研究の目的である。 本年度は、 PAR-3 遺伝子がホモ欠失し、発現が消失していることを発見した食道扁平上皮癌細胞株(KYSE30 とKYSE270)とPAR-3の発現が保持されている細胞株とを比較して、PAR-3とタイトジャンクションのマーカーであるZO-1の細胞内局在を蛍光二重染色で調べた。その結果、PAR-3の発現が保持されている細胞では細胞間接着面にPAR-3とZO-1が共局在している(タイトジャンクションが形成されている)のに対し、PAR-3の発現が消失している KYSE30 細胞とKYSE270細胞ではZO-1 が細胞間接着面から消失している(タイトジャンクションが消失している)ことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
PAR-3 遺伝子がホモ欠失し、発現が消失していることと発見した食道扁平上皮癌(KYSE30 とKYSE270)でPAR-3とZO-1の細胞内局在を蛍光二重染色で検討し、KYSE30 細胞とKYSE270細胞ではPAR-3の欠失に伴ってタイトジャンクションが消失していることを明らかにできた。当初の計画通り順調に研究が進展している。
平成23年度に得られた結果を基にして、PAR-3遺伝子のホ乳類細胞内発現ベクターの作製と、siRNAによるノックダウンの実験系を構築する。PAR-3遺伝子ホモ欠失細胞にPAR-3遺伝子を発現ベクターで強制発現した時、あるいは逆にPAR-3 の発現を siRNAでノックダウンした時の(1)タイトジャンクション形成、(2)細胞の浸潤・転移・増殖能への影響を調べる。
PAR-3遺伝子発現ベクターの作製とsiRNAの作製、細胞培養、PCRやWestern blot、蛍光免疫染色などに必要な試薬を購入する。また、学会旅費、論文作成費、文具と書籍購入費等にも研究費を使用する予定である。
すべて 2011 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
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