研究課題/領域番号 |
23590472
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
黒瀬 顕 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70244910)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | グリオーマ / DNA傷害 / 悪性化 / 抗癌剤 / テモゾロミド / 脳腫瘍 / フローサイトメトリー / γH2AX |
研究概要 |
脳腫瘍における抗癌剤の選択は数々の治験結果に基づいて行われていると言っても過言では無く,腫瘍ごとにいかなる機序で抗腫瘍効果を発現しているのかは不明の点が多い.申請者は抗癌剤による殺細胞効果に大きな役割を負っている抗癌剤によるDNA損傷とアポトーシスの誘導について,有用なDNA損傷マーカーであるγH2AXの特異抗体を用いて検討している.これにより,薬剤投与による一時的なDNA傷害とともに薬剤による二次的アポトーシスも同時に検出でき,しかもフローサイトメトリーを用いることで細胞周期のいかなる時期でかかる細胞傷害が生じているかが分かるため抗癌剤作用機序の解析に極めて有効な方法である.現在までにグリオーマ培養細胞株においテモゾロミドを主体にDNA損傷とその後のアポトーシスについて調べた,その結果,現在グリオーマ治療に多く用いられているにもかかわらずテモゾロミドは細胞ごとに異なる効果を示した.一部の細胞はアポトーシスではなくsenescenceに陥ることが分かった.またこれらの効果はp53変異の有無とは無関係であった. また癌化や悪性化については癌遺伝子や癌抑制遺伝子発現からの研究が主流である.前述の申請者らのDNA傷害の検出は通常の病理組織切片にも応用できる.すなわちγH2AXを免疫組織化学的に検出することで個々の腫瘍細胞におけるDNA傷害の程度が検出できる.この方法により,様々なグリオーマの病理組織切片においてDNA傷害を検出したところ,グリオーマにおいては低悪性度のものよりも高悪性度のものの方がγH2AX陽性率が低かった.通常は細胞増生が活発なものほど細胞自身が産生する活性酸素の影響を受けDNA傷害が高度になると予測されるがその反対の結果が得られた.このことはDNA傷害に対する正常の細胞応答が機能していないことが悪性化に繋がっている可能性を示唆しており,今後の研究課題である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該研究を申請した後,申請者は現在の所属に移動となった.現在の所属は新設された講座であり,研究スペース,研究機材ともに不足している.また職員や大学院生等の出入りが未だ少なく,マンパワーも不足している.以上の理由により,当初の予定よりもやや遅れているが,現在の環境でも可能な手段を用いて研究を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
前述の通り,抗癌剤の作用機序については同じ種類の腫瘍においても個々の細胞株によって反応性に違いが見られる.この際が何によるものか検討を進めたい. また,悪性化するとγH2AX陽性率が下がることについて,低悪性度のものではDNA傷害に対する細胞応答が正常であるため細胞自身の盛んな代謝によって活性酸素が生じてDNA傷害が起きるために腫瘍細胞の多くがγH2AX陽性になり,高悪性度のものではDNA傷害が生じても修復機構のいずれかに障害があるためγH2AXが陽性にならないと考えられる.とすると,DNA傷害への応答の欠如が悪性化に繋がっている可能性があり,この点から悪性化の機序を解析することを進めたい.特にグリオーマで最も悪性度の高いグリオブラストーマは,低悪性度のものから二次的に生じるものと,de novoで生じるものの二種類があり,それぞれ,p53変異やIDH-1変異に特徴があるためこれらをもとに,症例を積み重ねて考察していく.また他のDNA損傷修復因子の発現やミスマッチ修復に関連した蛋白発現との関連,細胞増殖能との関連を調べる.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究に必要な試薬やプラスチック製品の購入,および学会発表の旅費に当てる.
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