研究概要 |
申請者らは,DNAが最も重篤な傷害である二本鎖断裂を生じた際,コアヒストン蛋白の一部の特定部位がリン酸化されてγH2AXができることを利用し,この特異抗体を用いてDNA二本鎖断裂を検出し,DNA傷害及びDNA傷害に対する細胞応答をみることで,悪性化や抗癌剤の作用機序を調べることを目的とする.こういった方法による検討は他の研究者では殆ど行われていない.本年度はアストロサイト系腫瘍を用い研究を行った.アストロサイト系腫瘍は悪性度によりgrade IからIVまで分けられる.これらのうち,grade II, III, IVのastrocytomaを対象に個々の症例においてγH2AXの陽性率を調べた.その結果,grade IIとgrade IIIに有意差をもってgrade IIIのほうがγH2AXの陽性率の低下がみられた.grade IIIとIVでは有意差はないがgrade IVの方が陽性率が低下する傾向がみられた.従来,大腸癌,肺癌,子宮癌では癌の進行とともにγH2AXの陽性率が上がることが報告されているがastrocytomaでは逆の結果となった.このことからastrocytomaにおいてはDNA傷害に対する修復機能の低下が悪性化に繋がっている可能性が示唆される.またastrocytomaではgradeの上昇とともに核の多形性が高度になるが,大型の多形核はMIB-1が陽性であってもγH2AXも強陽性であるものが多くみられ,このようなγH2AX強陽性細胞はもはや増殖能はないと考えられるため,MIB-1陽性細胞の評価には注意が必要であることを喚起できた点も実績である.
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