研究課題/領域番号 |
23590473
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
村松 慎一 自治医科大学, 医学部, 教授 (10239543)
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キーワード | 神経変性疾患 / 遺伝子治療 |
研究概要 |
びまん性レビー小体病(DLB)と前頭側頭葉変性症(FTLD)は, 認知症の原因となる神経変性疾患としてアルツハイマー病についで多い. DLBでは広範な中枢神経領域においてα-synucleinが蓄積している. TDP-43は, FTLDのユビキチン陽性封入体の成分として同定され, 続いて筋萎縮性側索硬化症(ALS)において遺伝子変異が見いだされた. 以来, α-synucleinとTDP-43は神経変性疾患の病態解明の鍵となる分子として注目されている. 本研究では, 申請者が開発した血管内投与により広範な中枢神経領域の神経細胞に効率よく遺伝子を導入できるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを応用した. 24年度までに, FTLD, ALSと関連したTDP-43を神経細胞に発現させたモデルマウスを作製しその病態を解析している. さらに血管内投与型AAVベクターを応用した新規遺伝子治療法として, miRNAを発現するベクターを作製し, 中枢神経内の神経細胞へ送達することに成功した. 球脊髄性筋萎縮症(SBMA)の病態に関連したmiRNAをSBMAモデルマウスの筋肉内に投与することにより, 脊髄の異常アンドロゲン受容体蛋白の発現を減少させ表現型の改善が得られた. また, Alzheimer病モデルマウスの脳内の広範な領域でAβ分解酵素のNeprilysin を発現させることにより認知機能の改善効果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの血管内投与型のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを改良し, さらに効率よく脳と脊髄の神経細胞に遺伝子導入可能なベクターを開発した. このAAVベクターにTDP-43遺伝子を搭載し, 成体マウスの血管内に投与した. このマウスでは運動機能の障害が認められ, 脳の組織解析で導入したTDP-43の遺伝子発現を確認した. 現在, 前頭側頭葉変性症(FTLD)および筋萎縮性側索硬化症(ALS)のモデルマウスとして, 免疫組織化学, 生化学的手法により病態を解析している. 神経変性疾患の新規治療法として応用可能なmiRNAを発現する血管内投与型ベクターを開発した. このベクターを使用して球脊髄性筋萎縮症(SBMA)の病態に関連したmiRNAをSBMAのモデルマウスに投与したところ, 脊髄の異常アンドロゲン受容体(AR)蛋白の発現が減少し, 表現型の改善が得られた(名古屋大学との共同研究). また, Alzheimer病モデルマウスの脳内の広範な領域でAβ分解酵素のNeprilysin を発現させることにより認知機能の改善効果を得た(長崎大学・理化学研究所との共同研究).
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに作製したAAVベクターによりTDP-43を過剰発現させたFTLD/ALSのモデルマウスを使用して病態解析を継続する. TDP-43の神経細胞機能障害への関与が推察される候補分子を同定しており, 培養細胞も使用してそれらの解析を進める. びまん性レビー小体病(DLB), パーキンソン病, 多系統萎縮症(MSA)の病態発現に関わるα-synucleinを搭載した血管内投与型AAVベクターを使用して, モデル動物を作製する. より大型のカニクイサル・ブタなどの動物にも遺伝子導入しモデル動物を作製する.
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次年度の研究費の使用計画 |
AAVベクターの作製に必要な試薬, 細胞培養器機, 免疫組織化学の抗体, 試薬などの消耗品, マウスの購入費用などに使用する. 前年度に続きAAVベクターの作製を継続する. AAVベクターを投与したマウスに対し, 経時的に運動機能評価および行動解析を実施する. 著しい機能障害が認められない場合は最長, 18か月程度まで観察した後に安楽殺して組織解析する. 組織解析は, 4%パラホルムアルデヒドによる灌流固定後, 脳および脊髄組織を摘出し, パラフィン包埋切片を作製する. 一次抗体には新たに作成した抗TDP-43抗体などを使用してABC法また蛍光免疫染色法を適宜選択して組織染色を行う. 一部の動物についてはグルタールを含む固定液を使用して電顕による検索を行う. 発現した蛋白のWestern blotなどを行う.
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