研究課題/領域番号 |
23590474
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
中野 泰子 昭和大学, 薬学部, 教授 (20155790)
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研究分担者 |
根来 孝治 昭和大学, 薬学部, 講師 (70218270)
谷岡 利裕 昭和大学, 薬学部, 助教 (80360585)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アディポネクチン / マクロファージ / エピジェネティクス / 炎症 / 高分子量アディポネクチン / 易炎症性 / 低アディポネクチン血症 |
研究概要 |
アディポネクチンが炎症性の刺激を抑制すること、これは濃度依存的で、また、前処理時間の長さに依存すると報告されている。しかし、血中アディポネクチンが恒常的に受容体を介して細胞にどのように作用しているかを検討した報告はない。そこで本研究では、先ず、恒常的に種々の濃度にさらされた細胞がどのような状態にあるかを解明することを目的とした。 ヒト血中高分子量アディポネクチン(high molecular weight adiponectin、HMW)は我々の検討では男性で約2μg/mL、女性で約4μg/mL程度であった。また、マウス骨髄マクロファージのRANKL処理による破骨細胞への分化をHMWは1μg/mL程度でも抑制することから、易炎症惹起状態を呈する低アディポネクチン血症の病態をRAW264.7細胞で再現するための条件検討を行った。検討の過程で細胞密度が大きく影響することが再現性良く認められ、細胞密度が低い条件では1μg/mLでも抗炎症効果が認められるが密度が高い状態だとHMWの抗炎症効果が減弱した。 一方、平行して行ったトランスジェニックマウスを用いた炎症モデルの検討では、全身でアディポネクチンの発現を抑えたアンチセンスマウスでは血中濃度が野生型の8割程度と若干の低下にもかかわらず炎症を起こしやすく、また、刺激によるCa流入が起こりやすい、すなわち炎症性応答を起こしやすい状態にマクロファージがなっており、その原因となる遺伝子変化が基底状態ですでに起こっていることが判明した。 低アディポネクチン血症すなわち易炎症病態を再現するためには、単純に低濃度のHMWで長期間処理するだけでは十分ではなく、細胞密度がかなり重要なファクターとなることより、1μg/mLのHMW処理で抗炎症効果がかろうじて認められる細胞密度条件で1と10μg/mLのHMW処理を行い今後検討を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の項で記載したように、単純にアディポネクチン濃度により細胞にエピジェネティックな違いが起こるのではないことを初年度は解明した。この検討ではHMW処理単独での経時変化の解析やLPSによる炎症惹起後の経時変化の解析をおこなっており、細胞密度により大きな差がでることや、LPSへの反応も細胞密度で大きく異なるという興味深い経験をしている。これはこれまでに報告された論文では分らなかったことで、今後の検討を推進するにあたってに非常に意味のある経験であったと思っている。低アディポネクチン血症すなわち易炎症病態を再現するためには、単純に低濃度のHMWで長期間処理するだけでは十分ではなく、細胞密度がかなり重要なファクターとなることより、1μg/mLのHMW処理で抗炎症効果がかろうじて認められる細胞密度条件で1と10μg/mLのHMW処理を行い今後検討を進める予定である。当初の計画どおりGeneChipアッセイを行い、無処理や1と10μg/mLのHMW処理を比べて発現の違いが認められる遺伝子や、炎症刺激時にHMWアディポネクチン共存や前処理で特徴的な動きが認められた遺伝子を対象に、ChIP qPCR(クロマチン免疫沈降-定量的PCR)法によりヒストン修飾やHDAC、HATの結合状態など転写へのプライミング状態を解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要の項で記載したように、単純にアディポネクチン濃度により細胞にエピジェネティックな違いが起こるのではなく、RAW264.7では細胞密度といったストレス、in vivoでは何らかの持続的な炎症などの影響をアディポネクチンが抑制し、その抑制の程度が濃度により違うことにより最終的に個体のエピジェネティックな状態が異なってきていることが推定できる。そこで、アディポネクチン濃度でのエピジェネティックな変化の検討については、1μg/mLのHMW処理で抗炎症効果がかろうじて認められる細胞密度条件で1と10μg/mLのHMW処理を行い、GeneChipを用いて差異の解析を行う。また、CycLex AMPK Kinase Assay KitによるAMPK活性の測定やcAMP EIA kitを用いた細胞内cAMP定量、その下流のPKAの活性はPepTag® cAMP-Dependent Protein Kinase Assayなどで解析する。さらに、細胞全体のシグナル系のバランスが易炎症性といった形質をもたらしている可能性も高いのでリン酸化タンパク質のプロファイリングおよびそのリン酸化部位の同定を行いたいと思っている。 また、上記したように一見野生型のマウスと異なる点が無く、炎症を惹起するとか高脂肪食を負荷するなどしないと違いが認められないアディポネクチンアンチセンストランスジェニックマウスで基底状態のマクロファージにすでにエピジェネティックな違いが生じていることより、今後、他の臓器、特に肝臓や筋肉などの解析を行う。 更に、RAW264.7細胞でアンチセンストランスジェニックマウスで起こっていた易炎症性の遺伝子変化が起こる条件検討を行う。細胞密度によるストレスや、低濃度のLPSやTNF-αによる刺激、培地のpHを酸性に傾けるなどの炎症性刺激をまずは試みる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は消耗品費100万円、業務委託費91万円(総額191万円)を想定している。内訳は以下のとおり。 初年度は基礎検討に多くの時間を費やしたが、この検討で決めた条件、すなわち1μg/mLのHMW処理で抗炎症効果がかろうじて認められる細胞密度条件でRAW264.7を無処理、1と10μg/mLのHMW処理を行い、GeneChip解析を行う。また、アンチセンスやセンストランスジェニックマウス、野生型マウスの腹腔内マクロファージでも解析を行いたいと思っており、委託検査代として約19万円x3回分=57万円を考えている。また、シグナル系のバランスの解析も行いたいと考えており、上記のように処理したRAW264.7細胞のリン酸化タンパク質のプロファイリングおよびそのリン酸化部位の同定についても計画している。これには委託検査代として1検体17万円x2=34万円必要である。 その他、Tgマウスの飼料代や野生型マウス代(15万円)、細胞培養用培地やウシ胎児血清等の試薬(15万円)、培養プレートや各種チューブ等のプラスチック器具(10万円)、各種抗体やAMPK活性、cAMP測定などの各種測定キット等の生化学試薬(30万円)及びqRCRやChiPアッセイ用試薬等の分子生物学試薬(30万円)が必要である。 経費的に当初の予定より高額になるが、初年度が低く抑えられたこと、計画の実施上重要な経費であることより、妥当な経費と判断している。
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