研究課題/領域番号 |
23590474
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
中野 泰子 昭和大学, 薬学部, 教授 (20155790)
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研究分担者 |
根来 孝治 昭和大学, 薬学部, 講師 (70218270)
谷岡 利裕 昭和大学, 薬学部, 助教 (80360585)
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キーワード | アディポネクチン / マクロファージ / エピジェティクス / 炎症 / 高分子量アディポネクチン / 易炎症性 / 低アディポネクチン血症 |
研究概要 |
本研究では、恒常的に種々の濃度のアディポネクチンにさらされた細胞がどのような状態にあるかを解明することを目的として検討を行っている。 昨年度、処理するHMW濃度や前処理時間だけでなくモデルとして使用しているマクロファージ系細胞株RAW264.7細胞の処理時の細胞密度にも大きく影響されることが判明した。細胞密度が高い場合炎症性応答が促進されることより、HMW濃度以外の影響を避けるためHMW処理48時間後に細胞密度が70~80%になるように系を調整し、10μg/mL HMW処理(+)と(-)のRAW264.7細胞から総RNAを調整し、GeneChip解析を実施した。HMW処理だけのため遺伝子発現が大きく変動することはなかったが、興味深い知見が得られてきており更にクラスター解析やパスウェイ解析の結果も参考に今後詳細に解析を進める予定である。 上記の検討以外にin vivoでの状態を確認するために、当教室が所有する血中アディポネクチン濃度が低い (adiponectin anti-sense transgenic mouse, AsTg) マウスと野生型マウスのマクロファージでも検討を行っている。両群のマウスより常在性腹腔マクロファージ(無刺激、定常状態)を回収して解析したところ、何の処置もしていないAsTgマウスのマクロファージではIL-6、TNF-αの発現が亢進し、抑制性サイトカインであるIL-10が低値を示していた。また、このマクロファージを通常のFCS入りの培地で一晩培養したところこの表現型は消失し、野生型マウスと同様の表現型に回復した。これらの結果はアディポネクチン低値の環境下で炎症応答に傾いた表現型を獲得していることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の項で記載したように、低アディポネクチン血症すなわち易炎症病態を再現するためには、単純に低濃度のHMWで長期間処理するだけでは十分ではなく、細胞密度がかなり重要なファクターとなることより当初の単純な1μg/mL と10μg/mL HMW濃度での処理による比較ではなく、先ずはアディポネクチンの及ぼす抗炎症性の変化をHMW 10μg/mL 48時間処理により解析することにした。その結果、HMW 10μg/mL 48時間処理では劇的な変動は認められないが、ケモカインレセプターや、IL-1などからのシグナル系やMAPカイネース、PLD4やAlox5など炎症性物質産生に関与する遺伝子の発現低下や、CHOPなどの転写を阻害する遺伝子、metallothionein 1や2、solute carrier family、IFNにより誘導される種々のタンパクの弱い発現誘導など興味深い変化が確認できている。これらの結果はON/OFFではなく量的にコントロールされていることを示しており、変動する遺伝子数はそれほど多くはないもののそれぞれの関係などまだ検討することは多い。 また、アディポネクチンで報告されているAMPKの活性化やcAMP増加についてはHMW処理でもAMPKのリン酸化であれば5分、cAMP増加では20分をピークとした反応が起こることが確認できた。しかし、48時間処理といった慢性刺激下でこれらの状態を解析することはAMPKであれば培地交換なしでこの時間培養することだけでリン酸化がおこり、また、cAMPの測定のために基質を取り込ませる前処理で変化してしまい、検討したが結果は得られなかった。 このように当初計画より処理法などを変更したり、断念せざるを得ない検討も存在したが概ね目的通り進行している。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」に記載したように、GeneChipによる解析結果についてはクラスター解析やパスウェイ解析の結果も含めて今後それぞれの遺伝子の動きの意味やその機構など的を絞って解析していく予定である。 また、AsTgやsTg(血中アディポネクチン濃度が高いadiponectin sense transgenic mouse)、野生型マウスのマクロファージでのこれらの遺伝子解析、培養する際に細胞密度を濃くすることにより易炎症性の状態にできることよりこの時の各遺伝子の発現変動解析、各遺伝子のRNAi法によるKOや発現ベクターによる強制発現によりそれぞれの遺伝子変動の意味を解析する予定である。 また、AsTgやsTg、野生型マウスの肝臓や骨格筋など各種臓器での遺伝子発現の違いについても炎症性応答に関与する遺伝子やGeneChip解析により動きが認められた遺伝子について検討していく予定である。 また、RAW264.7細胞を用いてHMW前処理によりLPSによるTNF-αの誘導は阻害できないがIL-1βの誘導は阻害できることやHMW単独ではM2化は誘導できないが、IL-4によるM2化に及ぼすHMWの効果などの炎症抑制の機構についてもGeneChipにより得られたデータを加味して検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度は消耗品費約72万円、業務委託費91万円(総額約163万円)を想定している。内訳は以下のとおり。 アンチセンスやセンストランスジェニックマウス、野生型マウスの腹腔内マクロファージ でもGeneChip解析を行いたいと思っており、委託検査代として約19万円x3回分=57万円を考えている。また、シグナル系のバランスの解析も行いたいと考えており、HMW処理48時間(+)と(-)のRAW264.7細胞のリン酸化タンパク質のプロファイリングついても計画している。これには委託検査代として1検体17万円x2=34万円必要である。 その他、Tgマウスの飼料代や野生型マウス代(10万円)、細胞培養用培地やウシ胎児血清等の試薬(15万円)、培養プレートや各種チューブ等のプラスチック器具(12万円)、qRCRやRNAi、レポーターアッセイ、遺伝子発現ベクターなどの分子生物学試薬(35万円)が必要である。 経費的に当初の予定より高額になるが、計画の実施上重要な経費であることより、妥当な経費と判断している。
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