研究課題/領域番号 |
23590476
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
田村 和広 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (70281409)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 子宮内膜症 / モデルマウス / 炎症 / インターロイキン6 / プロテアーゼ受容体 / 出血 |
研究概要 |
子宮内膜症では腹腔内に飛散した正常な内膜細胞が異所性に増殖して病変を形成すると考えられている。本来、除去されるはずの内膜細胞が生存・増殖し、病的変化を起こす分子機構について、腹腔内の内分泌環境の異常という視点から、新規のヒト細胞移植内膜症モデルマウスを用いて解析した。マウス腹腔内に注入したヒト子宮内膜細胞(腺及び間質細胞)は、移植数日後に内膜症様病変を形成する。このモデルでは卵巣摘出部位(右片側のみ摘出)に著しい病変がみられた。ヒト月経血成分に相当すると想定されるマウスの血液成分が内膜細胞の生着と増殖を促進することが考えられたので、内膜症様病変の形成・機能に対する出血成分の影響を検討した。すでにプロテアーゼ受容体(PAR)が内膜症の患者由来の内膜細胞に発現し、その活性化が単球遊走蛋白質(MCP-1)などの炎症性因子を上昇させるという報告がある。病変様組織では、インターロイキン(IL)-6とシクロオキシゲナーゼ(COX)-2 の発現が亢進しており、そのレベルは卵巣摘出群で、非摘出群よりも有意に高かった。また、非卵巣摘出動物においてPARアゴニスト処置細胞を移植して形成された病変でのIL-6レベルは、アゴニスト非処置群のそれよりも高値を示した。腹腔内のIL-6量もアゴニスト処置群で高く、PARシグナルを抑制するセリンプロテアーゼ阻害薬がIL-6発現を抑制した。培養した腺細胞および間質細胞の各細胞においてもPARアゴニスト処置で、特にPAR1アゴニスト処置群によりIL-6発現は上昇した。しかし、病変のサイズ、細胞増殖、生存に対する影響はなかった。以上の結果をヒトに外挿すると、病巣での出血、排卵による腹腔内への出血がトロンビンなどによるPARの活性化を介して内膜症様病変のIL-6発現を促進させ、病巣での炎症性反応の悪化に関わることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標である出血成分の作用について、血液成分が内膜症様病変の炎症反応を促進する結果が得られ、原著論文の受理まで完了した。予定項目の生存シグナルへの影響については、mTOR, Akt, NFκ-Bを検討したが、再現性の検討中である。また、mRNAレベルの解析が終了していないため、次年度の検討課題に加えたい。
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今後の研究の推進方策 |
このPAR介在性シグナル及び病変形成に対する卵胞ホルモン(エストロゲン)、黄体ホルモン(プロゲステロン)の影響を解析する。内膜細胞の異常な生存シグナルを惹起する因子とその未知因子作用後の細胞内シグナルの全貌は明らかにされていない。内膜病変の形成と進行に特に重要な細胞内因子を明らかにするため、本疾患モデルで形成される病変組織において発現が上昇するまたは下降するを二次元電気泳動とLC-MS/MS分析または MALDI-TOF分析を組み合わせた方法により網羅的に同定する。これらの中から、細胞死や生存に関わると考えられる上記の因子に注目して選択し、その機能と細胞内生存シグナルとの関係を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
LS-MS/MS分析及び MALDI-TOF分析の費用が全体の約半分を占める。残りは、内膜症様病変の病態生化学的な特徴づけのために必要なRNA発現解析、蛋白質の活性・発現解析に必要な試薬、抗体代金である。細胞培養のプラスチック器具や血清、マトリゲルも必要である。
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