子宮内膜症の発症メカニズムとして、逆流した月経血中に含まれる剥がれた子宮内膜片が異所性に生着して機能するという移植説が有力であり、ヒト病変では、出血と共に炎症反応が誘起されている。実験的にヒト子宮内膜腺細胞株並びに間質細胞株を混合した浮遊液を片側卵巣摘出術 (uOVX) 施行ヌードマウスの腹腔内に注入すると、内膜症病変に類似した病変様組織が卵巣摘出部位周辺を中心に形成される。この内膜症様病変では、セリンプロテアーゼインヒビターであるアンチトリプシン(α1-AT)が顕著に低下していた。この内膜症様病変において子宮との接着部位周辺には腺様構造がみられ、間質細胞にα1-ATの発現が認められた。正常人血中濃度以下のα1-ATを間質細胞に処置すると、プロテアーゼ活性化受容体(PAR)刺激によるインターロイキン-8(IL-8)とシクロオキシゲナーゼ-2の発現量の増加が抑制された。さらに、α1-ATは、PARアゴニスト前処置細胞でのPGE2によるシクロオキシゲナーゼ-2発現上昇や上皮成長因子 (EGF) によるIL-8発現の上昇に対しても抑制作用を示した。一方、間質細胞のα1-AT発現をノックダウンすると、PGE2誘導性のシクロオキシゲナーゼ-2発現量は、増加した。これらのことは、α1-ATが過剰な炎症反応に対してプロテアーゼ阻害に依存しない阻害作用をもつことを示す。病変の炎症反応の助長にα1-ATレベルの低下が関わる可能性も推察された。内膜症は月経血中の成分により遺伝的要因を持つ正常子宮内膜細胞が形質転換を起こし、炎症反応を伴って悪化すると考えられるが、本研究は、内膜症病態におけるプロテアーゼ系の失調の関与と共に、これが創薬ターゲットになり得る可能性も示した。
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