研究課題
抗原提示細胞である樹状細胞(DC)の分化・免疫応答に転写因子IRF4、およびIRF8は重要な役割を果たしている。寄生虫感染症のマラリアではDCの成熟阻害・抗原提示機能低下の起こることが知られているが、メカニズムは不明である。本研究では、マラリア原虫がDCの分化を転写因子レベルで阻害することにより免疫回避していることを明らかにし、IRF発現減少の機序とその免疫学的影響を解析して、IRFの発現を回復させる方法を追求する。 研究初年度は、マラリア原虫(Plasmodium berghei ANKA)感染モデルマウスを用い、感染時の脾臓DCサブセット(CD4+ DC、CD8α+ DC、plasmacytoid DC (PDC)、CD4- CD8α- (DN) DC)を詳細に解析した。そして、脾臓CD11c+ DCのうち、CD4+ DC、CD8α+ DC、およびPDCの割合と絶対数が減少し、DN DCの割合・絶対数は逆に増加することを見出した。このとき、DCの分化に重要である転写因子IRF4/IRF8の発現を調べると、マラリア原虫感染マウスの脾臓CD11c+ DCにおいて、非感染マウスに比べIRF4ならびにIRF8の発現が低下していた。以上の結果から、原虫感染赤血球が、分化段階にあるDC、あるいはDCの前駆細胞に作用し、転写因子IRF4/IRF8の発現を抑制することで分化異常を引き起こすのではないかと考えられた。これを検証するために、in vitroで原虫感染赤血球の存在/非存在下で骨髄細胞からDCの培養を試みたところ、原虫感染赤血球の存在下では、非感染赤血球存在下あるいは赤血球未添加の場合に比べ、骨髄由来CD11c+ DCにおけるIRF4、IRF8の発現が低く、DCサブセットの分化に異常の生じることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
研究初年度は、マラリア原虫感染モデルマウスでDCの分化に重要である転写因子IRF4、またはIRF8の発現の減少を伴うDCサブセットの分化異常を見出した。原虫感染赤血球の存在下で骨髄細胞からDCの培養を試みると、骨髄由来CD11c+ DCにおけるIRF4、IRF8の発現が非感染赤血球存在下あるいは赤血球未添加の場合に比べて低く、DCサブセットの分化に異常の生じることも明らかにした。以上の結果はマラリア原虫がDCの分化を転写因子レベルで阻害することを示唆する。
研究計画に従い、IRF発現減少の機序とその免疫学的影響の解析を進め、IRFの発現をマラリアにおいて回復させる方法を考案したい。そのためには、IRF4、IRF8導入骨髄細胞を用いて、原虫感染赤血球存在下でDC分化の是正が可能かどうかin vitroにおいて検証すると共に、骨髄移植によるDCの分化誘導とマラリア感染をin vivoで検討する。IRF遺伝子導入骨髄の移植により、機能的なDCが再構成されると予想している。そしてIRF4、IRF8の発現が低下したDCの抗原提示機能低下に関与する分子を探索するために、原虫感染マウスより調製したCD11c+ DCのマイクロアレイ解析を行う。
研究計画に従い、大部分の研究費はマウス購入費・維持費、および細胞培養器具、核酸の合成・精製などに関わる分子生物学・生化学試薬や抗体・サイトカインなど免疫学試薬など消耗品に当てられる。研究の進捗状況によっては、マイクロアレイ解析を行う。
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PLoS ONE
巻: 6 ページ: e25812
10.1371/journal.pone.0025812