研究概要 |
これまでの研究成果によって、マラリア流行地に居住する女性が妊娠し、マラリア原虫に感染した場合の症状を反映するマウスモデルの作出に成功した。作出した妊娠中のマラリアモデルの病態解析の結果、妊娠中期からマラリア原虫に対する防御免疫が強く抑制されることで、宿主体内でマラリア原虫が急激に増殖することが明らかとなった。さらに、マラリア原虫を感染させた妊娠マウスは妊娠後期に肝細胞内への脂肪蓄積を伴う重度の肝傷害を発症することを見出した。そこで、本年度は、作出した妊娠マラリアモデルで認められた肝傷害と宿主免疫応答との関係を明らかにするために、血漿中のIFN-γ、およびIFN-γによって誘導される一酸化窒素 (NO) について解析を行った。その結果、妊娠マラリアモデルの血漿中IFN-γおよびNOの有意な増加が認められた。NOの産生増加と肝傷害との関係を明らかにするために、一酸化窒素合成酵素 (iNOS) 欠損マウスを用いて解析を行った。その結果、野生型マウスと比較して, iNOS欠損マウスを用いたモデルでは, 肝細胞の壊死と肝細胞内への脂肪蓄積が抑制された。これらの結果から、妊娠中のマラリアにおける肝傷害にはNOが重要な役割を担っていることが示唆された。一方で、iNOS欠損マウスを用いたモデルの胎盤および胎児は、野生型マウスを用いたモデルと同様に、胎盤構造の異常、胎児の体重および胎児数の減少が認められた。この結果から、NOは胎盤組織の破壊には関与しないことが示唆された。
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