研究課題/領域番号 |
23590495
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
田中 信忠 昭和大学, 薬学部, 准教授 (00286866)
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キーワード | ドラッグデザイン / 非メバロン酸経路 / マラリア |
研究概要 |
寄生原虫感染症であるマラリアは、世界中で毎年3億~5億人の感染者、100万~300万人の死者を出している。「非メバロン酸経路」は、真正細菌やマラリア原虫に特徴的に存在する代謝経路であるため、新規抗生物質の標的として注目されている。非メバロン酸経路の阻害は、マラリア原虫に対して致死的効果を与えるが、同経路を持たないヒトには毒性を示さない。 本研究では抗マラリア薬のリード化合物の創製を志向し、熱帯熱マラリア原虫の非メバロン酸経路を制御する化合物(阻害剤)の合理的開発を行うため、同経路酵素群の網羅的立体構造解析ならびにin vitro再構成系や物理化学的手法を利用した阻害剤探索を行う。 今年度は、主として熱帯熱マラリア原虫非メバロン酸経路第二酵素PfDXRの立体構造解析に取り組み、新規阻害剤存在下の4成分(PfDXR/Mg/NADPH/inhibitor)複合体の立体構造解析に成功した。今年度用いた新規阻害剤は、既存阻害剤であるホスミドマイシンの誘導体であり、ホスミドマイシンに比べより強力なPfDXR阻害能を有する化合物である。ドイツのハインリヒ・ハイネ大学デュッセルドルフのThomas Kurz教授から一連の化合物の提供を受け、結晶化条件の探索、回折強度データの収集を行った。提供された20種類程度の化合物中、10種類以上に関しPfDXRとの複合体の微小結晶を得ることに成功した。その内、3種類に関し十分な分解能の回折強度データが得られた。新規化合物中に新たに導入された官能基とPfDXRとの相互作用は、これまでに明らかにされているPfDXRとホスミドマイシンとの間に観測された相互作用とは異なる新たな相互作用様式であり、新規化合物の強固な阻害能を説明づけるものであった。現在、詳細な解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の対象である熱帯熱マラリア原虫非メバロン酸経路酵素群の中で、PfDXRは、その阻害剤fosmidomycinがclindamycinとの併用により第二相臨床試験に進んでいるという観点から、最も重要な研究標的である。そのPfDXRに関し、既存のfosmidomycin及びFR900098との複合体(昨年度報告)だけでなく、より強力な新規阻害剤との複合体の立体構造解析にも成功したことは、当初の計画以上に進展していると考えている。また、新規阻害剤との複合体の構造解析で明らかとなったPfDXRとの相互作用様式は全く予期せぬ結合様式であり、さらなる化合物の最適化に繋がる非常に重要な成果であると考えられる。現在、Kurz教授のグループで複合体の立体構造情報に基づいてデザインした化合物の合成が進められている。 一方、他の酵素群に関しては、いくつかの酵素に関して発現・精製に成功しているものの、結晶化に悪戦苦闘している状況である。従って、研究計画全体としては、前者と後者の相殺で、おおむね順調な達成度と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
阻害剤複合体の立体構造解析に成功したPfDXRに関しては、各種阻害剤との複合体の立体構造解析を進める。近年、nMオーダーの阻害活性を有するfosmidomycin誘導体の合成が続々と報告されており、それらの化合物を入手し、結晶化・構造解析を行う。新規阻害剤デザインの方向性としては、「親水性が高いためバイオアベイラビリティが低い」というfosmidomycinの弱点を補うことである。具体的には、疎水性官能基の導入が有効であることが共同研究者のKurz教授らによって明らかにされている。従って、立体構造解析の対象とする化合物は、fosmidomycinに疎水性官能基を導入した化合物群となる。これまでに提供を受けた20種類程度の化合物に加え、我々が明らかにした複合体の立体構造情報に基づいて構造最適化を施した化合物の合成がKurz教授のグループにおいて進められており、それら化合物の大量合成が済み次第提供を受け、結晶化・X線結晶構造解析を行う。また、JAXAとの共同研究により国際宇宙ステーションを利用した高品質蛋白質結晶成長実験も実施しており、現在PfDXRとKurz教授から提供を受けた化合物との複合体の結晶化が国政宇宙ステーション上で進行中である、平成25年度初めに地上へ帰還する結晶を用い、高分解能回折強度データを収集し、原子レベルで相互作用様式を解明する予定である。 他の酵素群に関しては、大量発現および結晶化条件の検討を継続する。また、PfDXRに関し、現在のアッセイ系で多くの阻害剤スクリーニングを実施するには、大量の精製酵素を要する。そこで、より少量の精製酵素で阻害剤アッセイができるようなアッセイ系の開発にも取り組みたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の主たる用途は、組換え蛋白質の発現系構築に必要な制限酵素やベクター類、発現ホストの培養に必要な培地類、精製に必要な各種樹脂(アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー等)類、結晶化に用いる試薬及び器具(結晶化用プレート、カバーグラス等)類、回折データ保存用ハードディスク等消耗品の購入である。また、国内で開催される各種学会において本研究の成果を発表し、専門家との議論を通じて本研究を発展させたい。
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