研究課題
寄生原虫感染症であるマラリアは、世界中で毎年3億~5億人の感染者、100万~300万人の死者を出している。「非メバロン酸経路」は、真正細菌やマラリア原虫に特徴的に存在する代謝経路であるため、新規抗生物質の標的として注目されている。非メバロン酸経路の阻害は、マラリア原虫に対して致死的効果を与えるが、同経路を持たないヒトには毒性を示さない。本研究では抗マラリア薬のリード化合物の創製を志向し、熱帯熱マラリア原虫の非メバロン酸経路を制御する化合物(阻害剤)の合理的開発を行うため、同経路酵素群の網羅的立体構造解析ならびにin vitro再構成系や物理化学的手法を利用した阻害剤探索を行う。今年度、主として熱帯熱マラリア原虫非メバロン酸経路第二酵素PfDXRの立体構造解析に取り組み、新規阻害剤存在下の4成分(PfDXR/Mg/NADPH/inhibitor)複合体の立体構造解析に成功した。新規阻害剤は、共同研究者のThomas Kurz教授(ハインリッヒ・ハイネ大学デュッセルドルフ)から提供された既存阻害剤であるホスミドマイシンの誘導体であり、ホスミドマイシンに比べより強力なPfDXR阻害能を有する化合物である(IC50値が数nM)。新規化合物中に新たに導入された官能基とPfDXRとの相互作用は、これまでに明らかにされているPfDXRとホスミドマイシンとの間に観測された相互作用とは異なる新たな相互作用様式であり、新規化合物の強固な阻害能を説明づけるものであった。シンクロトロン放射光を用いた高分解能精密化の結果、ラセミ混合物である阻害剤のS体がPfDXRの活性部位に結合していることが明らかとなり、今後の阻害剤デザインに極めて有用な情報が得られた(Kurz教授らとの共著論文として投稿準備中)。
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