研究課題
リステリア(Listeria monocytogenes)は食品を介して感染し、髄膜炎や敗血症などのリステリア症および流産や胎児性敗血症などの周産期リステリア症を引き起こす。膜傷害毒素であるlisteriolysin O(LLO)は本菌の重要な病原因子でありリステリアが宿主の細胞内で生存・増殖するのに重要な役割を果たすが、インフラマソーム活性化の誘導にも必須である。これまで我々はAIM2インフラマソームおよびNLRP3インフラマソームがLLO産生性リステリアの認識に重要であることを明らかにしてきた。本研究ではそれらインフラマソームの役割についてマウス全身感染モデルを用いて解析した。AIM2インフラマソームとNLRP3インフラマソームに共通のアダプタータンパクであるASCを欠損したマウスは、致死量以下のリステリアを感染させても対照群と同程度の感染抵抗性を示したが、致死量感染では対照群より高い抵抗性を示した。致死量感染後のマウスにアンピシリンを投与して救命効果を調べたところ、ASCの欠損により救命率が上昇した。これらの結果はインフラマソームがリステリア重症感染において宿主に不利に働くことを示唆する。その機序を解明すべく解析を続けたところ、インフラマソーム依存的に成熟化・分泌されるIL-18がリステリア致死性感染における感受性亢進の中心を担うことが明らかになった。また、IL-18はASC依存的かつ好中球セリンプロテアーゼ依存的な経路でもインフラマソーム非依存的に分泌されることが新たにわかった。さらに、ASCとIL-18が免疫抑制的サイトカインであるIL-10の産生応答に関わることが明らかになり、実際にIL-10を阻害するとリステリア致死性感染が改善した。本研究により細菌感染におけるインフラマソームの新たな役割が明らかになり、重症感染症の治療を考える上で重要な知見である。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の申請時、平成24年度までにリステリア全身感染モデルにおけるインフラマソームの役割を解明することを計画していた。本研究ではインフラマソームがリステリア重症感染において宿主に不利に働くこと、およびインフラマソームによる病態悪化は抗生物質治療を行う上で重要な問題であることを示した。さらに、その詳細な機序としてインフラマソーム機構の基質であるIL-18が関わること、ASCおよびIL-18依存的に産生応答が誘導されるIL-10がインフラマソームによる病態悪化を担う経路であることを明らかにできた。リステリア致死性感染におけるIL-18の成熟化・分泌がインフラマソームだけでなくASC依存的かつ好中球セリンプロテアーゼ依存的な経路でも誘導されるという予想外の発見もあり、知見という意味でも応用の観点からも研究の幅が広がった。これらの成果は既に科学論文の原稿としてまとめられており、投稿前の確認作業中である。さらに、肺炎球菌感染の経鼻感染モデルにおけるインフラマソーム関連タンパクの役割の解析においても新たな研究成果が得られている。具体的には、インフラマソーム関連タンパクはインフラマソームの形成を介してサイトカインの産生に働くだけでなく、複数の抗菌タンパクや組織修復因子の遺伝子発現にインフラマソーム非依存的に関わっていることが明らかになった。現在はそのような遺伝子発現誘導の機序や各抗菌タンパクや組織修復因子の機能解析を行っており、平成25年度内に論文として発表する予定である。両研究テーマとも詳細な解析の完了およびそれら成果の発表の見通しが立っており、当初の計画以上に進展していると判断できる。
前年度の成果をもとに、肺炎球菌におけるインフラマソームの生体内での役割をさらに詳細に解析する。マウスを用いた経鼻感染による肺炎球菌肺炎モデルでインフラマソーム関連タンパクの宿主防御への関与を明らかにする。既にASCおよびNLRP3が肺炎球菌の排除に重要である一方、caspase-1は必要ではないことが今までの結果から示唆されている。この実験(経鼻感染後の肺内菌数の測定および生存曲線の解析)を繰り返して確証を得る。これまでの検討で肺炎球菌肺炎モデルにおけるNLRP3-ASC依存的caspase-1非依存的な防御機序はインフラマソーム依存的サイトカイン(IL-1βおよびIL-18)とは独立していることが示唆されているのでNLRP3およびASCがその他の防御的サイトカインの産生応答に関与しているか検討する。この目的で肺胞洗浄液および肺ホモジェネート中のIFN-γやIL-17Aなどを測定する。NLRP3およびASCは造血系細胞だけでなく気道上皮にも発現していることが最近報告された。気道上皮におけるNLRP3およびASCの発現が防御を担っている可能性を骨髄キメラマウスを作製して調べる。既にDNAマイクロアレイ解析によりNLRP3またはASCの欠損により発現が低下する遺伝子をいくつか同定している。それらの中で肺炎球菌感染に対して防御的に働くものを同定する。まず、定量的RT-PCRおよびウエスタンブロット法にてASCまたはNLRP3の欠損でこれらの遺伝子発現が減少することを確認する。これら遺伝子のうち抗菌性タンパクであると報告されているものについてリコンビナントタンパク標品を作製し、菌体への付着や殺菌能を解析する。組織修復因子として知られるTFF2もNLRP3およびASCに依存して発現していたため、TFF2を各欠損マウスの気道内に外因的に発現させ、肺炎球菌への抵抗性の変化を調べる。
本研究ではマウスの感染モデルを用いた実験を主に行うため、多数のマウスを必要とする。野生型マウスのみでなく多くの遺伝子改変マウスも維持しているため飼育費用が嵩むと予想される。野生型マウスの購入費用は1,200円/匹であり、研究計画では100匹ほど使用予定である。マウス血清中や肺胞洗浄液中の様々な炎症性サイトカインを測定するため、多種のサイトカイン測定用ELISAキット(または抗体ペアと標準タンパク)を用意する。サイトカイン測定用ELISAキットは高額であるため、多くの研究費を振り分ける必要がある。また、ウエスタンブロットや蛍光染色、in vitroおよびin vivoでの中和などに用いる消耗試薬として抗体を多種購入予定である。定量的RT-PCR用の試薬(蛍光色素含ポリメラーゼおよびプライマーなど)も購入する。これらおよびこれら以外の消耗品費として100万円使用する予定である。本年度は所属学会(国内3学会および海外1学会)にて研究成果を発表する予定であり、旅費として60万円の予算を計上している。また、論文投稿料 (2雑誌に投稿予定)や学会参加費としてその他に30万円の予算を計上している。
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