研究課題/領域番号 |
23590510
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
友安 俊文 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 准教授 (20323404)
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研究分担者 |
田端 厚之 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 助教 (10432767)
長宗 秀明 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 教授 (40189163)
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キーワード | 連鎖球菌 / 細胞溶解毒素 / 発現調節機構 / 病原性 |
研究概要 |
Streptococcus intermedius(SI)は口腔内細菌叢に含まれる菌であるが、日和見的に難治性で反復性の歯周病や深部臓器に重篤な膿瘍感染を引き起こす事が明らかになり、国内外においてその臨床的な重要性の認識が高まっている。この菌は病原因子として、ヒト細胞特異的な細胞溶解毒素インターメディリシン(ILY)を分泌する。また、ily遺伝子ノックアウト株ではヒト細胞感染性が激減すること、ILY分泌量は歯垢由来の弱毒株に比べて重症膿瘍由来の強毒株では平均で6~10倍も多いことなどの事実から、ILYはSI感染に必須の因子であると考えられている。因って、ily遺伝子の発現機構を理解することは、SIの病原性発現機構を理解する上でも重要である。そこで、発現制御機構に関する解析を行った結果、この遺伝子の発現がカタボライト抑制因子(CcpA)やラクトースリプレッサー(LacR)によって制御されていることを明らかにしている。また、LacRはILY産生量だけではなく病原性も制御していることも確認している。さらに、我々はウシ胎児血清(FBS)に含まれているα-1-アンチトリプシン(A1AT)がily遺伝子の発現を活性化する因子であることを発見した。さらに、SIはA1ATのN結合型糖鎖をLacZなどの糖分解酵素により分解すること、その分解産物によりILY分泌量の増加が起こる可能性が高いことを明らかにしている。このようにSIは、血清や細胞表面などに存在する糖鎖を分解することでILYの分泌量を増加させ、口腔内の定着や病原性の発現を行っている可能性が高くなった。今後、糖鎖によるily遺伝子発現制御機構の詳細について解析することでSIの病原性発現機構を明らかにする計画である。また、その知見を利用して、SIの感染防御法の開発を目指した研究も行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度に、FBSに含まれるily遺伝子発現を活性化する因子P55.6の精製に成功した。そこで、このタンパク質をSDS存在下においてリシルエンドペプチダーゼにより限定分解した。その後、分解断片を精製しそれら断片のアミノ酸シークエンスを決定したところ、P55.6がα-1-アンチトリプシン(A1AT)であることを決定した。なお、A1AT はN結合型糖鎖を持ち、血中に漏れだした細胞内消化酵素の活性を阻害する役割がある。また、A1ATは血清中に豊富に存在するタンパク質であり、その血清中の濃度は通常2~3mg/mLである。なお、A1AT 存在下でSIの培養を行うとA1ATの分子量が10kDa程度減少することが分かった。PAS染色による解析の結果、この分子量の減少はA1AT から糖鎖が離脱した為であることを確認した。さらに、この糖鎖離脱にはSIのlacオペロン内に存在し、複数の糖分解酵素のドメイン(β-ガラクトシダーゼやβ-マンノシダーゼなど)を持つ巨大タンパク質(分子量248kDa)LacZが関与していることも決定した。さらに、lacZ遺伝子を破壊するとFBSによるily遺伝子発現の活性化が起こらなくなることも確認した。現在、LacZがSIの病原性に関与しているかどうかについて解析を進めている。このように、平成24年度の研究により本研究課題であるily遺伝子の発現制御機構のかなりの部分を明らかにすることができたと考えている。 しかしながら、LacRがily遺伝子を直接制御しているのかまたは間接的に制御しているのかについての点については、大腸菌から精製したタンパク質がインクルージョンボディを形成してしまい、活性のあるタンパク質を得ることが出来ず、ゲルシフトアッセイが困難な状況になっておりまだ確認が行われていない。
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今後の研究の推進方策 |
A1AT のN結合型糖鎖がLacZによりどのように分解され、分解された産物のどれが、どのようにしてSIのily遺伝子発現を活性化するのかという点について明らかにする計画である。LacZは、2,235アミノ酸残基の巨大な分子量と複数の糖分解酵素が保有するドメインを持つタンパク質であり、複数の糖分解活性を示す可能性が考えられる。そこで、蛍光基質などを利用することによりどのような基質を分解するのかについても解析を行う予定である。また、糖鎖の分解にはLacZ以外の複数の糖分解酵素が関与している可能性が高いので、LacZ以外の分解に関わる酵素の同定も行う予定である。また、LacZ破壊株の細胞毒性についても感染実験などにより解析する予定である。 なお、FBSによるily遺伝子発現活性化機構は、本研究によってかなり明らかになってきたが、ヒト血清に含まれるIgG などのily遺伝子発現抑制因子がどのような機構でily発現を抑制するのかについては全く分かっていない。そこで、ヒト血清に含まれるIgGがSIの糖鎖の分解活性を抑制することが可能かどうかについて調べる予定である。 LacRがily遺伝子を直接制御しているのかまたは間接的に制御しているのかについての点については、大腸菌から精製したタンパク質がインクルージョンボディを形成してしまいゲルシフトアッセイが困難な状況である。そこで、SIの細胞抽出液に含まれるlacRがilyプロモーター領域と結合するかどうかについてプルダウンアッセイを行うことにより解析する予定である。さらに、ガラクトースや糖鎖による病原因子の発現誘導が、SIに特異的に起こるのものなのか、他の連鎖球菌にも同様の機構をもつものが存在するのかどうかについて明らかにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
残金144,263円のうち65,680円は3月17日から20日まで開催された学会の参加費に使用されている。また、3月中に4,670円は英文校正に、5,464円はDNAシークエンスに67,599円は消耗品購入の為に使用されている。残り850円は、平成25年度の消耗品の購入の為に使用する予定である。
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