研究課題/領域番号 |
23590511
|
研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
桑原 知己 香川大学, 医学部, 教授 (60263810)
|
研究分担者 |
中山 治之 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (80294669)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 腸内細菌 / 菌交代症 / Clostridium difficile / Bacteroides / 毒素産生 / 偽膜性大腸炎 / 莢膜多糖 / トランスポゾン |
研究概要 |
本研究はヒト腸内常在菌であるBacteroides thetaiotaomicron (BT)が偽膜性大腸炎の起因菌であるClostridium difficile (CD)の毒素産生を抑制するメカニズムを明らかにすることを目的としている。CDはエンテロトキシンであるToxin AとサイトトキシンであるToxin Bを保有し、それぞれHT-29細胞とVero細胞特異的に細胞変性効果を示す。CDとBTを混合培養し、得られた混合培養上清をHT-29細胞またはVero細胞に接種して細胞毒性を評価した結果、BTはCDの両細胞に対する細胞毒性を減弱させた。したがってBTはCDのToxin AおよびToxin B両毒素による細胞毒性を抑制する因子を保有することを明らかにした。CDの細胞内で合成された両毒素は、TcdEタンパク質による自己溶菌作用によって細胞外へ放出される。混合培養時におけるCDのグラム染色像をみるとBTとの混合培養においてのみ溶菌が抑制されていたことから、BTがCDの溶菌を阻害することで細胞外への毒素の放出を抑制していると考えられた。またBTの培養上清中には溶菌抑制作用だけでなく、CDの毒素合成を阻害する作用をもつ生理活性物質が存在することも見出している。加熱あるいは分子量に基づき分画したBTの培養上清でCDを培養した結果、BTのToxin A抑制因子は耐熱性であり、抑制活性の大部分は100 kDa以上の分画に存在していた。次に、我々が開発した改良形質転換法を用いてBTのトランスポゾン挿入変異ライブラリーを作製し、責任遺伝子群を同定することを試みた。このトランスポゾン挿入変異ライブラリーを用いてスクリーニングを行った結果、これまでにCDのToxin Aによる細胞毒性を抑制できなくなった14のクローンを同定することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画においてはBTのCD毒素産生抑制作用について生化学的な検討を行うとともにBTのトランスポゾン挿入変異ライブラリーをスクリーニングし、CD毒素産生の抑制作用を消失したクローンを検索すること目標としていた。本年度の研究成果により、毒素産生抑制因子がBTの培養上清中に存在し、耐熱性で、その分子量は100 kDa以上であることを明らかにした。現時点で14個ものトランスポゾン挿入変異株が得られており、次年度においてこれら候補遺伝子の解析を進めることによりBTのCD毒素産生抑制作用のメカニズムを解明することができると考えられ、本研究はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度においてはトランスポゾン挿入変異ライブラリーのスクリーニングを継続するとともに、本年度に得られた14個の候補クローンの詳細な解析を行う。同定された14個のクローンにおいてゲノム上でのトランスポゾン挿入部位を決定することにより、どのような機能を担う遺伝子がBTのCD毒素産生抑制作用に関与しているのか明らかにしていく。また、候補遺伝子が機能未知の場合には、当該遺伝子産物がどのようなタンパク質と相互作用するのか、yeast two-hybrid systemを用いた解析を行い、同定タンパク質の機能から目的遺伝子の機能を推定していく。これらの研究により、BTのCD毒素産生抑制作用のメカニズムを明らかにしていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究経費は本年度の未使用経費(1,137円)とともにトランスポゾン挿入変異ライブラリーのスクリーニングに必要な細胞培養試薬や抗CD毒素抗体の購入や候補クローンにおける挿入遺伝子の遺伝子産物の機能解析に必要な試薬品の購入に重点的にあてる。また、in vivoでのBTのCD毒素産生に対する抑制効果を検討するため無菌マウスの購入や飼育経費としても使用する。
|