研究概要 |
腸内フローラにおける優勢菌種であるB. thetaiotaomicronの培養上清を添加した培地でC. difficileを培養するとToxin AによるHT29細胞の変性作用およびToxin BによるVero細胞の変性作用がともに抑制されることをこれまでの研究で明らかにしてきた。また、トランスポゾンを用いた本抑制作用の責任遺伝子の探索の結果、同定された大部分の遺伝子は糖代に関連するものであり、莢膜多糖、糖加水分解酵素や糖鎖輸送担体構成分子であるGcpEなどがリストアップされた。特に莢膜多糖PS-4合成遺伝子の挿入変異による抑制活性の低下が顕著であり、本多糖が、C. difficileの細胞毒性に対する抑制効果の主たる要因ではないかと考えられた。そこで、本年度は、どのような糖が本細胞毒性抑制効果に関与しているのかを推測するため、13種類の糖をそれぞれ0.5%濃度になるようにC. difficileの培養液中に添加し、細胞増殖および毒素産生量を比較した。その結果、添加する糖により、C. difficileの培養上清中のHT29細胞毒性に差異が生じ、Glucose, Xylose, FructoseおよびMannoseは細胞毒性抑制効果が認められた。また、Glucose, Xylose, Fructose, Mannose, GlucosamineおよびFucoseのC. difficileの増殖に対する影響を調べた結果、Fucoseは陰性対照と同様に溶菌を示すOD590の低下が認められたが、その他の糖についてはOD590の低下が認められず、溶菌が抑制されていると考えられた。したがって、B. thetaiotaomicronの産生する菌体外多糖の構成糖がC. difficileの溶菌を抑制することにより、本菌の細胞障害性毒素の遊離を抑えていることが示唆された。これら莢膜多糖の構造解析により、C. difficile関連下痢症の治療薬の開発につながる知見が得られるものと考えられる。
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