研究課題/領域番号 |
23590516
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
松下 治 北里大学, 医学部, 教授 (00209537)
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研究分担者 |
安達 栄治郎 北里大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30110430)
井上 浄 北里大学, 理学部, 講師 (00433714)
森 望 香川大学, 医学部, 教授 (90124883)
内田 健太郎 北里大学, 医学部, 助教 (50547578)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 細菌毒素 / コラーゲン結合ドメイン / 細胞外マトリックス / 膠原線維 / アンカーリング / 骨新生 / 再生医療 / 技術移転 |
研究概要 |
病原細菌には、細胞外マトリックスの主要な構成成分であるコラーゲンの水解酵素を産生するものがある。これまでに細菌性コラゲナーゼから基質結合ドメインを単離し、これをアンカーとして用いる新しい薬物送達システム(DDS)を開発し、人工組織における層構造の形成、鼓膜再生や血管新生誘導に応用できることを示した。引き続き本年度は以下のことを明らかにした。1)薬物シーズの作製に用いたアンカーの構造活性相関の解析 これまでにマトリックス・アンカーとして利用してきたClostridium histolyticum class IIコラゲナーゼ(ColH)のコラーゲン結合ドメイン(CBD)を生産・精製後、X線結晶学的に立体構造を決定した。2)新たなECMアンカーの創出 マトリックス・アンカーリングの実用化には、最小のアンカーで十分な基質選択性と結合性を確保する必要がある。本年度は四種のアンカー領域をヒト由来成長因子との融合タンパク質として生産した。生産性が良好で、従来のアンカーより約11 kDa小さく、しかも十分なコラーゲン結合能を示すアンカー領域を見出した。3)ヒト型薬物シーズを含む新規機能性タンパク質の作製とモデル実験 ヒト型塩基性線維芽細胞成長因子(hbFGF)とコラーゲン結合ドメインの融合タンパク質を作製した。同種骨基剤の表面処理を行って膠原線維を露出させ、この融合タンパク質を骨基剤に効率良く結合させることができた。この複合材をモデル動物に投与し骨新生能を比較したところ、単体のhbFGFを用いて同等の処理を行なったコントロールよりも有意に高い骨形成を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載したように、それぞれのサブテーマにおいて、初年度として妥当な進展があった。個別的には、CBDの構造生物学的解析における結晶の作製・回折データの取得・位相の決定、DDS用のマトリックス・アンカーの選択と組換え融合タンパク質の生産法の確立、コラーゲン結合性成長因子・基剤・投与方法の開発において、飛躍的な進展があった。幸運に恵まれた側面があったことも否定できないが、他方で多くの失敗を経験しながらも地道に条件検討を繰り返したことが、これらの領域における順調な進展につながったと考えられる。多数の試行を繰り返すだけの知識と経験の蓄積があったこと、研究組織を構成する各分野の一線の研究者が密な連携をとったこと、さらに各研究者がそれぞれの特性を生かし情熱をもってサブテーマに取り組んだことが好結果につながったと思われる。他方で、研究代表者、研究分担者、連携研究者の異動により、進展が緩徐とならざるを得なかった領域もあった。教員の流動性を高める施策が背景にあり甘受せざるを得ないとも考えられるが、平成24年度からは研究組織の構成員すべての所属が安定するため、研究の進展スピードも向上すると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでClostridium histolyticum class IIコラゲナーゼ(ColH)のPKDドメインとコラーゲン結合ドメイン(CBD)をマトリックス・アンカーとして利用してきた。平成24年度からPKDドメイン単体およびPKD-CBD領域全体の構造解析を行って、これらとマトリックス分子の結合機構の全貌を明らかにしたいと考えている。このような知見が「マトリックス・アンカーリング」の臨床応用の基盤を形成すると考えられる。引き続き構造生物学的解析を進めるとともに、担当している海外連携研究者との連携をより密に行うため、別途外部資金を獲得し我が国に招いて共に実験を行うことを検討している。骨新生の誘導については、平成23年度内に予備実験を完了したところである。平成24年度は、実験動物モデルの例数を増やして最終的な結論を得るとともに、動物モデルの性状や新規医療材料の投与法を臨床実例に近づけ、より精度の高い結果を得る予定である。他方で、高密度コラーゲン・シートとコラーゲン結合型上皮成長因子を用いた鼓膜再生用複合素材の開発においては、民間企業への特許ライセンス交渉が大詰めを迎えており、平成24年度の早期に契約を締結して産学協同で実用化研究と商品開発を進める計画である。本研究を含む一連の研究の成果を実用化するためには、上記両者の医療材料についてGMPグレードの生産法の確立と前臨床研究のため、10億円程度の資金が必要である。外部資金を別途獲得して、この開発型研究を推進してゆきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
基本的には、当初の計画どおりに研究費を使用する予定である。マトリックス・アンカーの構造活性相関の解明をさらに進めるため、CBD変異体の作製、PKDドメイン単体およびPKD-CBD領域の生産を行って構造生物学的解析を行う予定である。この目的で遺伝子組換え用試薬、細菌用培地、GSHセファロースやNiキレート・セファロース等のタンパク質精製用担体、一般試薬等、プラスチック器具等の消耗品に研究費の多くを使用する。マトリックス結合型VEGF-Aの産生系の確立、コラーゲン結合性線維芽細胞成長因子(hbFGF)と表面処理骨基剤を組み合わせた複合材による骨新生の促進法の確立、基剤となる高密度コラーゲン・シートの生産法確立と機能評価を担当する研究分担者三名にそれぞれ研究費(25万円)を配分する。培養細胞による組換えタンパク質生産のための細胞培養用シャーレ、細胞培養用培地を購入する。加えて、臨床の実例に近い新規医療材料の投与法を確立するため、モデル動物(マウス)の購入と飼育管理費を支出する。特段の設備備品を購入する計画はない。平成23年度は東日本大震災に関連して本研究助成基金助成金のうちの三割相当分の配分の見通しが立たなかったこと、また研究代表者、研究分担者、連携研究者の異動のため平成24年度以降に予期せぬ出費が危惧されたことから、慎重な予算執行を心がけた。そのため、若干の研究費が本年度以降に繰り越されたが、平成24年度以降にはこのような事態は発生しないと思われ、通常の研究費の使用を計画している。
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