研究課題/領域番号 |
23590520
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
山田 剛 帝京大学, 医真菌研究センター, 准教授 (80424331)
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キーワード | 白癬菌 / 白癬 / 分泌型プロテアーゼ / 病原因子 / マーカーリサイクリング |
研究概要 |
世界規模の感染症である白癬に対する制御を講じていく上で、原因菌である皮膚糸状菌(白癬菌)の感染メカニズムを理解することは必要不可欠である。本研究課題において、申請者らは長らく白癬菌の重要な病原因子と推定されてきたケラチン分解活性を有する分泌型プロテアーゼの一つである「ズブチリシン型セリンプロテアーゼ遺伝子ファミリー(Subs)」に着目し、本菌が表皮角質層に侵入する際に発現するSub遺伝子群の役割に関する体系的な理解を目指している。 最近、白癬菌7菌種の全ゲノムシーケンスの比較解析情報が公開され、本研究開始時点では相同性の高い7遺伝子(Sub1~7)で構成されているものと考えられていたSub遺伝子ファミリーが12個の遺伝子で構成されていることが判明した。このような多重遺伝子族の解析を進める際、相同遺伝子の多重破壊株がしばしば有益な情報を提供してくれる。そこで平成23年度は、部位特異的組換え酵素(FLP)を利用して、遺伝子を効率良く多重に破壊するためのシステムである選択マーカーリサイクルシステムの構築を行った。本システムの構築過程において、Trichophyton rubrumより単離した銅イオントランスポーター(ctr4)のプロモーター領域(Pctr4)がコンディショナルプロモーターとして白癬菌で効率良く機能することが判明し、Pctr4によるFLP遺伝子の条件的発現制御が可能となり、本菌で効率良くマーカーリサイクルを行うためのプラスミドベクター(pMRV)の構築に成功した。そこで平成24年度はpMRVを骨格に使用してSub遺伝子ファミリー破壊用コンストラクトを構築し、異なるSub遺伝子群を多重に破壊した株で構成される破壊株ライブラリーの構築を進めてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」でも述べたが、平成23年度終了時点で、銅イオン応答性プロモーター(Pctr4)がコンディショナルプロモーターとして白癬菌細胞内で効率良く機能することがわかり、Pctr4によるFLP遺伝子の条件的発現制御が可能になったことから、本菌におけるマーカーリサイクルを可能にするプラスミドベクター(pMRV)を構築することができた。本成果を踏まえ、平成24年度は、表皮角層の主要成分であるケラチンによって顕著に発現が活性化することが報告されているSub遺伝子群(Sub1、Sub2、Sub3、Sub6、Sub7)を中心に、pMRVベクターを利用して多様な組み合わせのSub遺伝子の多重破壊を展開した。現時点で、最大4つのSub遺伝子(Sub1、Sub3、Sub6、Sub7)を破壊した株を筆頭に、複数種のSub遺伝子多重破壊株の作出に至っている。最終年度である平成25年度においても、さらに多くのSub遺伝子を多重に破壊した株を引き続き作出していくと同時に、より多様なSub遺伝子を多重破壊した株の作出を進め、破壊株ライブラリーを充実させる。そして、作出した多重破壊株について、in vitro解析法ならびに動物モデルなどのin vivo解析法を利用して表現型の解析を行うとともに、破壊したSub遺伝子群と病原性との関係を明らかにしていく予定である。そのような意味においても本研究課題は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」で述べたが、平成23年度に引き続き、24年度も研究が概ね順調に進展し、ケラチンによって顕著に発現が活性化するとされるSub遺伝子群について、マーカーリサイクル用プラスミドベクター(pMRV)を用いた多重破壊株の作出を展開することができた。現時点で、4つのSub遺伝子(Sub1、Sub3、Sub6、Sub7)の多重破壊株を筆頭に、複数種の多重破壊株の作出に至っている。最終年度となる平成25年度においては、破壊株ライブラリーのバリエーションをさらに拡大していくと同時に、破壊株のin vitro条件下における表現型解析、さらには動物実験モデルなどを利用した病原性との関係を解析し、感染病巣の経時的な進展に対するSub遺伝子の役割(影響)を明らかにしていく。その結果として、Sub遺伝子ファミリーが白癬菌の組織侵入過程のどの時期に、どのような組み合わせで産生され、そこでどのような役割を果たしているのか?これらの疑問点に関する体系的な理解を深め、本菌における分泌型プロテアーゼの病原因子としての意義(重要性)に対する回答の一端を得ていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度、銅イオン応答性プロモーターであるPctr4によるFLP遺伝子の条件的発現制御が可能となり、白癬菌で効率良く機能するマーカーリサイクル用プラスミドベクター(pMRV)の構築に成功した結果、選択マーカーをリサイクルすることが可能となった。本成果を土台に 平成24年度は一年を通じて、表皮角層の主要成分であるケラチンによって顕著に発現が活性化することが報告されているSub遺伝子群(Sub1、Sub2、Sub3、Sub6、Sub7)を中心に、多様な組み合わせのSub遺伝子を多重破壊した株の作出を進めてきた。大きなトラブルもなく、計画していた実験を概ね遂行することができ、平成24年度の研究にかかる費用を抑制することができた。最終年度となる平成25年度においては、Sub遺伝子の多重破壊をさらに推し進めるとともに、破壊株ライブラリーのバリエーションをさらに拡大し、これら破壊株のin vitro条件下における表現型解析、さらには動物実験モデルなどを利用した病原性との関連性の解析を展開していく予定である。そのような解析を通じて、感染病巣の経時的な進展に対するSub遺伝子の役割(影響)を明らかにしていく。このような研究課題を遂行するために、平成24年度に生じた余剰分の費用を平成25年度に申請する費用と併せて使用する予定である。
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