研究課題/領域番号 |
23590521
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
水之江 義充 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (20157514)
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研究分担者 |
田嶌 亜紀子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (70317973)
岩瀬 忠行 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (80385294)
杉本 真也 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (60464393)
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キーワード | ATP / 腸球菌 / グルコース / 解糖系 |
研究概要 |
腸内に存在するATPが、腸管粘膜固有層におけるTヘルパー17(Th17)細胞を誘導することが報告された。無菌マウスはSpecific pathogen free(SPF)マウスと比べ、糞便中のATP量が著しく少なく、腸管粘膜固有層のTh17細胞数も著しく少ない、SPFマウスに抗菌薬を投与し、腸内細菌を排除すると、糞便中のATP量と腸管粘膜固有層のTh17細胞数がともに著減する、無菌マウスに経直腸的にATPを投与すると腸管粘膜固有層のTh17細胞数が著増し、大腸炎が悪化することが判明した。これらの結果から、腸内細菌由来のATPが腸管粘膜固有層におけるTh17細胞の分化を誘導した結果、マウスの大腸炎を悪化させる可能性が示唆された。しかしながら、腸管内のどの細菌がATPを分泌しているかは不明であった。我々は、マウスの腸内細菌叢を解析し、世界に先駆けてATPを分泌する細菌を単離し、腸球菌の一種Enterococcus gallinarumと同定した。これまで細菌のATP分泌に関する報告はほとんどなされていない。そこで、細菌によるATPの分泌機構について解析を行った。E. gallinarum以外の腸球菌属についてATP分泌能にについて検討したところ、新たに7株のATP分泌細菌を発見した。新たに発見された7株のうちEnterococcus mundtiiが大量にATPを分泌していたため、本菌を細菌のATP分泌機構の解析に使用した。合成培地を使用し、ATPの分泌に必要な成分を検討した結果、ATPの分泌にはグルコースが必須成分であることが判明した。また、E. mundtiiを好気的および嫌気的条件で培養した結果、ATPの分泌に差がないことが判明した。このことより、ATPの分泌には解糖系が重要な役割を果たしていることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、細菌のATP分泌に関わる報告はほとんどなされておらず、細菌によるATPの分泌メカニズムの解析も全くなされていないのが現状であった。我々はマウスの腸内細菌叢の解析により、腸球菌の一種E. gallinarumがATPを分泌することを発見した。また、ヒト由来のE. gallinarumも同様にATPを分泌することを見出した。さらに、E. gallinarum以外の腸球菌属についてATPの分泌能について検討したところ新たに7株のATP分泌細菌を発見した。その中で大量にATPを分泌するE. mundtiiを用い、細菌のATP分泌機構を解析した。合成培地を用い、ビタミン欠損培地、アミノ酸欠損培地、グルコース欠損培地を作成し、ATPの分泌に必要な因子を検討した結果、グルコースがATP分泌に必須の因子であることを見出した。さらに、通常の細菌培養に用いられる培地では、E. mundtiiはATPの分泌をしないが、通常の細菌培養培地にATPを添加すると、E. mundtiiはATPを分泌することを見出した。このことより、グルコースが細菌のATPには必須の因子であることを明らかにした。一般的に、ATPはグルコースなどの糖を基質として解糖系、TCA回路、電子伝達系で合成される。これらのATP合成経路のうちTCA回路と電子伝達系は酸素の影響を受けやすい、そこで、ATP分泌への酸素の影響を確かめるため、E. mundtiiを好気培養ならびに嫌気培養し、ATP分泌量を比較した。好気培養と嫌気培養でATP分泌量に差は認められなかった。この結果から、本菌によるATP分泌には酸素は不要であり、酸素の有無によって活性が影響を受けない解糖系が重要な役割を果たしていることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に得られた結果を基にして、ATP分泌機構の解明および細菌の分泌するATPの生態系における役割を検討する。 1、ATP分泌機構のさらなる解明のために、ジニトロフェノールを添加し菌体内ATPを枯渇させた状態(静止菌体)のE. mundtiiを作成し、グルコースを添加し細胞内外のATPの産生量の経時的変化を検討する。 2、ATP分泌における解糖系の役割をさらに詳しく調べるために、解糖系阻害薬であるヨード酢酸を添加し、細胞内外のATPの動向を検討する。 3、細菌の分泌するATPが他の細菌にどのような影響を及ぼすかを検討する。飢餓状態におかれた細菌は生物活性があるが培養不能状態(VNC:viable but noncalturable)に陥る。VNC状態の菌とATP分泌細菌を混合培養し、VNC状態の菌が培養能を回復するかどうか検討する。 4、細菌の分泌するATPが宿主にどのような影響を与えるか検討するために、培養細胞と混合培養しサイトカイン等の分泌に影響があるかなどを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品が予算よりも安く購入できたため平成24年度予算において一部が未使用となったため、次年度のATP分泌機構の解明に使用する予定である。 次年度の研究費はATPの分泌のメカニズムを解明するための試薬・器具購入費、および国内・国外における研究成果の発表のための費用として使用する予定である。 また、論文投稿や別刷りのための費用としても使用したいと考えている。
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