研究課題
緑膿菌のゲノム情報(比較ゲノム解析およびTn挿入変異株ライブラリー解析)を基盤とした統合的な解析によって本菌のトランスロケーション機構を解明することで、本菌の新規抗感染症予防および治療法考案のためのターゲットバリデーションを行うことを目的とし、本年度は、1.緑膿菌のムチン層透過機構の解析;2.比較ゲノム研究から同定した遺伝子の解析を計画し、次の成果を得た。【1.ムチン層透過】昨年度は、緑膿菌のムチン層透過には鞭毛運動に加えて宿主細胞表面を覆うムチンを分解する機構が寄与することを報告した。本年度は、緑膿菌のムチン分解セリンプロテアーゼの同定およびムチン層透過への寄与を解析した。in silico解析によって同定した緑膿菌PAO1株の12個のセリンプロテアーゼ遺伝子欠損株を作製したところ、mucD遺伝子の欠損はCaco-2細胞ムチン量の減少を引き起こさなかった。また、mucD遺伝子の欠損は、fliC遺伝子の欠損と相乗的に本菌のムチン層透過能を低下させた。以上の結果から、緑膿菌は鞭毛運動とmucD 遺伝子を介したムチン分解との2つの機能を協力的に作用させることでムチン層を透過することが明らかになった。【2.比較ゲノム研究】昨年度は、比較ゲノム研究から同定した機能既知および未知の60の候補遺伝子群の相同的組換え法によるノックアウト株を作製したことを報告した。本年度は、相補プラスミドの作成を行なった。現在、培養上皮細胞およびカイコ経口感染実験によって同定した遺伝子の緑膿菌トランスロケーションへの寄与を調べている。本研究のこれまでの成果から、腸管上皮組織で重要な障壁として働くムチン層や強固な上皮細胞間接着を越える緑膿菌の2つの機能が明らかとなり、緑膿菌トランスロケーションの全体像を解明するための端緒を開くことができた。今後、これら成果が次の計画の実施に大きく貢献するものと評価できる。
2: おおむね順調に進展している
概要に記したように、本年度の研究計画項目についておおむね達成することができている。特に本研究成果は、既に論文で受理・掲載されていることや国内外の学会発表での質問の多さからも関心の高い内容であることが認識されているとともに、今後の発展性が高いと考えており、次の計画の実施に大きく貢献するものと評価できる。また、これら推進によって、本補助金研究の実施期間内に、少なくとも緑膿菌のトランスロケーションメカニズムに寄与する遺伝子の同定まで至るものと考えられる。
平成24年度の研究を継続するとともに、同定した遺伝子の緑膿菌トランスロケーションへの寄与について培養上皮細胞を用いたin vitro評価に加えて、カイコおよび白血球減少マウス内因感染モデルを用いてin vivo 評価することで目的の達成を目指す。【1.培養上皮細胞透過実験】作製した緑膿菌遺伝子変異株の培養上皮細胞に対する付着、侵入、透過能を評価することで、候補遺伝子の腸管上皮細胞モノレイヤ透過への寄与を調べる。また、従来の解析手法に加えて蛍光顕微鏡による緑膿菌感染時の動画撮影(ライブセルイメージング)を行なうことで、緑膿菌の上皮細胞への感染動態をリアルタイムに解析する。【2.カイコ経口感染実験】本研究組織で確立した経口感染法によって作製した緑膿菌遺伝子変異株をカイコに経口感染後、カイコの致死率および体液(へモリンフ)中の菌数を調べることで、候補遺伝子の腸管経由トランスロケーションへの寄与を調べる。【3.白血球減少マウス内因感染モデル実験】作製した緑膿菌遺伝子変異株を経口感染後、マウスの腸管組織の病変、致死率、および血液や各臓器中の菌数を調べることで、候補遺伝子の腸管経由トランスロケーションへの寄与を調べる。
次年度の研究を遂行していくにあたり、特別に必要な設備などは計画しておらず、実験に掛かる経費が中心となるため物品代(試薬代、消耗品代)を中心とした代が必要経費の中心として計画している。また、研究成果を発表するとともに、関連する研究についての情報収集を行うため、国内外の学会へ参加するための旅費を使用計画に含んでいる。さらに、成果を論文としてまとめ投稿するために、論文校正などの経費の使用を計画している。
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J. Infect. Chemother.
巻: 19 ページ: 305-315
10.1007/s10156-013-0554-4.
巻: 18 ページ: 332-340
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